エンゲル係数と昇竜拳とサイコクラッシャーとドリルキック
以前この記事でエンゲル係数の上がり方が昇竜拳のようだと指摘した。
そのエンゲル係数のグラフがこれ。
統計局ホームページ/家計調査(家計収支編) 時系列データ(二人以上の世帯)
そして,昇竜拳は,これ。
あえて初代ストリートファイターから選んだ。
私はスト2からしかやったことが無いのだが,昇竜拳て意外と難しかった記憶がある。
昇竜拳を出そうとして波動拳,逆に波動拳を出そうとして昇竜拳を出してしまうという失敗は誰もが経験しているはずである。
くしゃみしようと思ったら屁こいちゃった的な。
特に相手から離れた位置で誤って昇竜拳を出してしまった時の気恥ずかしさ。
虚空に向かって虚しく放たれた昇竜拳の切なさを未だに私は覚えている。
ジャストフィットだ。
なんだろう,このしっくりくる感じ。
そして,エンゲル係数急上昇の一番の要因と思われるのが,食料価格の上昇である。
消費者物価指数 2015年基準消費者物価指数 長期時系列データ 品目別価格指数 全国 年平均 | ファイルから探す | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
この要因はいろいろあるだろうが,増税にアベノミクスによる円安を被せたのが一番影響しているだろう。
さて,このグラフにも昇竜拳を重ねてみよう。
ジャストフィットだ。
では,全部合わせてみよう。
うむ。実に昇竜拳である。
食料価格は急上昇した一方,名目賃金はほぼ横ばいであった。
つまり,給料はほぼそのままなのに食料価格だけ上がったということ。そりゃエンゲル係数も上がるよね。
さて,横に飛ぶ技と言えば・・・
サイコクラッシャーである。
強力なのに,タメ技だから出すのは簡単という,実に私のような下手くそに優しい技であった。
ベガを選ぶとほとんどこれしか出さなかった。
プールに入った時に,サイコクラッシャーの真似してグルグルしたことがあるのは私だけではないはず。
さて,名目賃金指数にサイコクラッシャーを重ねてみよう。
うむ。実にサイコクラッシャーである。
つまり,エンゲル係数が昇竜拳になった一番の原因は名目賃金がサイコクラッシャーだったのに食料指数が昇竜拳だったからと言うべきであろう。
前説が無いと絶対意味不明だねこの表現。
さて,エンゲル係数が上がった一方,家計消費指数は急降下している。
名目も実質も悲惨である。特に実質の落ち方は凄まじい。まるでジェットコースターのように落ちている。
一番の要因は賃金が上がらないのに増税と円安で物価だけ上がってしまったからであろう。
さて,これにふさわしい技は何か・・・・
ドリルキックだ。
インドの超人,ダルシム。
この男のせいで,「ヨガ」というのは,手足が伸びる秘術のことだと勘違いしていた小学生はたくさんいると思う。
未だに「ヨガ」と聞くとダルシムが真っ先に思い浮かぶ。
手足は伸びるし飛び道具もあるが,動きがスローなので使いこなすのが難しい印象であった。
どっかの本に書いてあったが,上級者が使うと一番強いのがダルシムらしい。
ヨガフレイムを出そうとしてヨガファイアが出てしまった経験のある人は多いはずだ。
意外と難しいよね,ヨガフレイム。
さて,そんなダルシムのドリルキックには色々な角度があるが,その中でも一番角度がきついやつを選んでみた。
重ねてみよう。
圧倒的フィット感っっ・・・!!
もはやこの時のためにドリルキックがあったのではないかと思ってしまう。
さて,アベノミクスの失敗を簡単にまとめると,下記のとおりである。
1.賃金がほとんど上がらないのに(青)
2.物価が急激に上がったので(赤)
3.実質賃金が落ちた(緑)
これが消費の冷え込みに直結した。
消費者物価指数 平成22年基準消費者物価指数 長期時系列データ 品目別価格指数 全国 年平均 | ファイルから探す | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
なお,2016年に実質賃金が回復しているのは物価が下がったからである。
日銀の掲げている「前年比2%」などという物価上昇が起きていればこうはならない。
さて,これを別の表現に置き換えてみよう。
すなわち・・・
1.賃金がサイコクラッシャーなのに
2.物価が昇竜拳だったので
3.実質賃金がドリルキック
3者そろい踏み。
圧倒的フィット感。
キリがないのでこれぐらいにしておくが,アベノミクスで起きた現象は昇竜拳とサイコクラッシャーとドリルキックで説明できてしまうものが多いのではないかと思う。
ほんとかよ!と思った方は是非拙著をお読みいただきたい。
なお,「昇竜拳ではなくてタイガーアッパーカットだろ!」との異論がある熱狂的サガットファンの方は,タイガーアッパーカットでいいと思う。
もう全然話変わるんですけど,サガットって何て言ってるんですかね。
最初にサガットのタイガーショットを見たとき,私の耳には「ハイブーッッ!」って言ってるように聞こえたんですよ。
衝撃ですよね。なんだよ「ハイブーッッ!」って。
だから私にはですね,タイガーアッパーカットは「ハイブーアッパーカット」って言ってるように聞こえたんですね。
もうなんで「アッパーカット」の部分はクリアなのにその前の部分が意味不明なんだよって思いましたよ。
なんなんだよサガット。なんなんだよハイブー。
ひたすらハイブーハイブー言ってるように聞こえたもんだから,サガットが相当嫌な奴に見えましたよ。
そうやって思い悩んでいた私に友人は「いや,あればタイガーッッ!って言ってるんだよ」と言った。
ほんとかよ。そう言われても私の耳にはやっぱりハイブーって聞こえるんだが。
なお,「愛がーッッ!」と言っているんだ,と主張する説もあるようだ。
つまり,サガットはひたすら愛を叫んでいると言うのである。
なんかロマンチックだから,もう「愛がーッッ!」でいいと思う。
カサアゲノミクスの分析
GDP改定値の「その他」について,平成29年12月22日に内閣府が内訳表を出したようだね。
いや,正確に言うと,「内訳表に近いもの」というべきだろう。内閣府は次のように説明している。
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/gaiyou/pdf/point20161208_2_add.pdf
本資料で掲げた「1.」から「3.」のそれぞれの項目は相互に影響し合っており、またここに掲げた以外の推計方法変更や基礎統計の反映などの影響もあり、これらの要因を厳密に分解できるわけではないこと、また、商業マージンの改定額については記録時点も異なっている(暦年値)ことや中間消費や最終需要といった配分先ごとの改定額を計算することが困難であるため、そのすべてが最終需要に配分されたとの仮定を置いた計算となっていることなどから、本資料の結果については、幅をもって見る必要がある。
なんか分かりにくいね。今回示されたもの以外にも影響してる項目はあるってことだよね。これって,「その他」の数字に近くなるように,都合のいい項目を切り出して調整した可能性もあるってことかな。平成28年12月の改定から1年以上も経過しているから,後付けで調整できてしまうよね。
そういった可能性があることを踏まえた上で,厳密な内訳表ではなく,あくまでも「内訳表に近いもの」という目で見る必要がある。
ではそれを見る前に,あらためて「その他」の影響の大きさを確認してみよう。これは平成23年基準の名目GDPのグラフだ。改定前は20兆円以上差があった1997年度と2015年度の差が,改定後はわずか0.9兆円になっている。
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h27/sankou/pdf/point20161222.pdf
ここで,このグラフから「その他」を差し引いたグラフを見てみよう。
全然ちがうじゃん。「その他」を引くと,1997年度と2015年度は13.5兆円も差があるよ。「その他」で1997年度を含む90年代を中心に大きく下げられて,逆にアベノミクス以降が大きく引き上げられたのがよく分かるね。
そうだね。「その他」の重要性を確認したところで,内閣府が公表した「内訳表に近いもの」を見てみよう。
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/gaiyou/pdf/point20161208_2_add.pdf
※上記PDFからそのまま引用
ちなみに,この項目の合計値と「その他」の差額(上記表の一番右の列)をグラフにすると下記のとおりだ。
今回公表された項目の合計値と,「その他」の数値は一致しているわけではないんだね。特に2015年度なんか差が2.7兆円もあるよ。
そう。それもあるので,あくまで「内訳に近いもの」として見る必要がある。内閣府も「幅を持って見る必要がある」と言っているしね。特に,2015年度のズレが大きくなっているのは非常に大事なポイントだから覚えておいて。
では個別の項目について,まずは「持ち家の帰属家賃」から見てみよう。持ち家の帰属家賃というのは,自分の所有する家について,発生したことにする家賃のことだ。この数値がGDPのおよそ1割を占めている。
なんで?自分の家なら家賃発生しないんだからおかしくない?
GDPの国際比較をするためにこのような数字が必要になる。例えば,借家の比率が高い国は,その分家賃が発生するから,消費が多いことになる。他方,持ち家の比率が高い国は,現実の家賃だけを考えると,借家の比率が高い国に比べて,消費が少なくなる。このような不平等を是正するために,持ち家についても家賃が発生したことにするんだ。
ふ~ん。実際には発生していない家賃がGDPの約1割を占めているなんて変な感じだね。
この持ち家の帰属家賃についての改定前後の差額を示したのがこのグラフだ。
何これ?90年代がきれいにゼロだよ。なんで?
内閣府によると,平成20年及び平成25年「住宅・土地統計」を反映した結果こうなったそうだよ。これによって2003年(平成15年)以降が上方改定されている。住宅・土地統計によって持ち家が増えていることが分かったから,持ち家の帰属家賃を増やしたんじゃないかな。
じゃあその前はどうやって算定していたのかな。いずれにせよ,現実には発生していない家賃で最大3.2兆円もかさ上げされているということだね。
次は建設投資だ。内閣府によると,建設部門の産出額の推計手法を、これまでのインプットベースによる推計手法から、「建設総合統計」等を用いた工事出来高ベースによる推計手法に変更したので,数値が変わったそうだよ。
ふ~ん。建設に関する支出を,入り口じゃなくて出口で補足するようにしたということかな。
まあそういうことになるかな。では見てみよう。
あれ?なんで2007年~2012年が6年連続でマイナスになってるの?過去22年度でマイナスになってるのは7回しかないけど,そのうち6回が連続してるってなんか不自然じゃない?
そうだね。不思議だね。ちなみに,マイナスになってる期間は,民主党政権時代(2009年9月~2012年12月)がすっぽり入るね。
さらに,マイナスになっている2007年度~2012年度までの平均値を出すとマイナス約1.4兆円。他方,アベノミクス以降の2013年度~2015年度までの平均値はプラス約2.3兆円。つまり,2007年度~2012年度とアベノミクス以降ではこの項目だけで各年度平均約3.7兆円の差がついていることになる。
え~・・・・。それから,改定前に過去最高だった1997年度は0.2兆円しかプラスになってないね。その前後は約3兆円プラスになってるのに。これもたまたまなのかな。
どうだろうね。次は産業連関表の反映による影響を見てみよう。産業連関表というのは,産業ごとの生産・販売等の取引額を表にしたものだ。
まずは自動車部門の改定から見てみよう。内閣府によると,自動車部門の商業マージン(儲け)の自動車部門への配分を変更したことによって,「総固定資本形成」と「家計消費支出」がマイナス改定になったそうだよ。なお,総固定資本というのは,簡単に言えば,国・地方公共団体・会社・家計等が購入した資産(建物,機械,車等)のことだ。総固定資本と家計消費支出に分けて見てみよう。
これはアベノミクス以降のマイナス幅が大きくなってるね。90年代よりマイナス幅が大きい。
そうだね。次は飲食サービスを見てみよう。内閣府は次のように説明している。
「平成 23 年産業連関表」では、従前の産業連関表では「飲食料品」など複数の部門に分かれて計上されていた持ち帰り・配達飲食を一括して記録する「飲食サービス」部門を新たに設定し、我が国で初めて実施された「平成 24 年経済センサス-活動調査」等により当該部門の産出額を把握するとともに、「家計消費支出」と「家計外消費支出」の配分割合が変更された。また、当該変更を「平成 12-17-23 年接続産業連関表」においても反映し、過去に遡って推計した。あわせて「飲食料品」に配分される商業マージンとして記録されていた持ち帰り・配達飲食の手数料分(原材料以外の部分)について、「飲食サービス」の産出額として記録するよう変更した。
なんだか分かりにくいね。持ち帰り飲食についてばらばらに記録されていたものを一つの項目にまとめた上で家計消費に対する配分を変え,さらに手数料も加えたってことかな。
そういうことになるかな。ではグラフを見てみよう。
いやいや,90年代低すぎでしょ。1998年度なんて唯一マイナスになってるよ。なんでこんなに低いの?
なんでだろうね。次は商業マージンだ。マージンというのは「利益」とか「儲け」という意味だよ。販売店が物を売った時に得る儲けと理解しておけばよいだろう。内閣府によれば,「「平成 7-12-17 年接続産業連関表」の情報を用いて運賃・商業マージンを再推計したことから、主に平成 11 年以前の運賃・商業マージンが下方改定となっている。」とのことだよ。
え~90年代下がりすぎじゃない?他と比べると明らかにマイナス幅が大きいよ。これなんで?
さあ。なんでだろうね。さて,ここで2015年度と,改定前の最高値を記録していた1997年度を比較した表を見てみよう。
項目 | 2015年度 | 1997年度 | 差 (2015ー1997) |
|
---|---|---|---|---|
1 | 持ち家の帰属家賃 | 3.2 | 0.0 | 3.2 |
2 | 建設投資 | 2.5 | 0.2 | 2.3 |
3 | 自動車(総固定資本形成 | -2.7 | -2.4 | -0.3 |
4 | 自動車(家計最終消費支出) | -2.2 | -2.0 | -0.2 |
5 | 飲食サービス | 4.8 | 0.3 | 4.5 |
6 | 商業マージン | -0.9 | -2.4 | 1.5 |
左記項目の合計 | 4.8 | -6.3 | 11.1 |
6つある項目のうち,4つで2015年度が上回っているんだね。下回っている2つの項目についても,併せて0.5兆円しか下回っていない。そして,合計で11.1兆円も差が付くのか・・・・。これって偶然?
少なくとも内閣府は偶然と言いたいだろうね。ただ,ここで注意しなければいけないのは,2015年度は,この1~6以外にもかさ上げ要因があるということだ。内閣府はこう言っている。なお「QE」というのはGDP速報値のことだ。
平成 27 年度については、「その他」要因の方が約 2.7 兆円大きいが、これは、詳細な基礎統計を反映して QE を年次推計へと改定したことにより、家計消費を中心に名目GDP が約 0.5%上方改定となったことが、「その他」要因に含まれており、「1.」から「3.」の項目の改定要因には含まれていないためである。
速報値を推計し直したら家計消費を中心に数字が大きく伸びたということね。最初の方で言ってた2015年度だけ「その他」との差額が大きくなるというのはこれが原因か。
そう。そして,これが1番の問題だ。
家計の消費に関する指標としては,総務省が公表している「家計調査」というものがある。これと,改定後の家計最終消費支出の乖離が大きくなっているんだ。
家計最終消費支出というのは,家計の消費を合計したもので,民間最終消費支出の約98%を占めている。 そして,総務省の家計調査は,この家計最終消費支出を算定する際の基礎資料の1つになっている。
まずは家計調査の「名目家計消費指数(総世帯)」を見てみよう。なお,家計調査の長期時系列データは暦年値しか無いので,暦年値で分析していくよ。
統計局ホームページ/家計調査 家計消費指数 結果表(2015年基準)
基本的に下落傾向だけど,2014年以降の落ち方が凄いね。
そう。ここで気をつけなければいけないのは,この下落傾向には,世帯数の増加も影響しているということだ。単身世帯の増加の影響で,世帯数は増加傾向にある。それで平均値が下がるので,それを考慮しなければならない。厚生労働省が公表している世帯数の推移は下記のとおりだ。
国民生活基礎調査 2016年 | ファイルから探す | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
なんか思いっきり減っている年があるけどなんて?
2011年は福島,宮城,岩手,2012年は福島,2016年は熊本の世帯数が入っていない。これは地震の影響だ。そこで,2011年,2012年,2016年について,各県のホームページを見てみると,世帯数が載っている。これを加えて補正したのが次のグラフだ。
宮城県(10月末現在)
岩手県(3月末しかないので3月末)
熊本県(10月1日現在)
※1000世帯以下四捨五入したものを追加。福島が10月の数字を公表しているので,他もそれに合わせたが,岩手は3月末しかないので3月末の数字を採用。
ぼこっと凹んでた部分が無くなったね。
うん。ちなみに,実質民間最終消費支出が基本的に右肩上がりで伸び続けてきたのは,この世帯数の増加が影響しているだろう。世帯が増えれば家賃や水道光熱費,家具・家電の購入代金の支払いや食費等が新たに必要になって,実質消費が伸びるだろうからね。
太郎,この世帯数に,さっき見た名目家計消費指数をかければ,名目GDPの家計最終消費支出の推移に近いグラフになると思わないかい?
そうだね。家計最終消費支出って,各家計の消費の合計だもんね。同じようなグラフになりそうだね。
そこで,この総世帯数×名目家計消費指数と,改定前後の名目家計最終消費支出を比較してみよう。分かりやすいように,2002年を100とした指数で見てみるよ。
なお,家計消費指数の長期時系列データは暦年しかないので,暦年で比較する。まずは改定前の平成17年基準と比較してみよう。改定前の数字は2015年までしかないから,2015年までで比較するよ。
ほとんど同じ動きをしているね。
そう。傾向がほぼ一致している。つまり,グラフが上下に動く方向が一致している。違うのは2006年だけだ。各グラフの乖離幅も小さい。家計最終消費支出が,総務省の家計調査の数字に世帯数を乗じたものと同じ傾向を示していることが分かるだろう。
では次に,改定後の平成23年基準と比較してみよう。
2014年までは同じような傾向を示しているのに,2015年からの乖離が凄いね。青線(世帯数×名目家計消費指数)は2015年に大きく下がっているのに,赤線(平成23年基準)はむしろ少し上がってる。そして,2016年はグラフの動く方向は一致しているけど,乖離はもっと大きくなっている。全然違うじゃん。
ここで,世帯数×名目家計消費指数と,改定前後の家計最終消費支出の乖離幅を比較してみよう。
うわ~。なにこの平成23年基準の2015年以降の乖離幅。これ,世帯数を考慮した家計調査の数値と離れすぎじゃない?
改定前の平成17年基準だと,最大でも絶対値で1.8しか離れてないのに,平成23年基準の2015年は4.3,2016年は5.6も離れてるよ。不自然過ぎるよこれ。
2015年で思いっきりかさ上げしたからこんなにずれたんじゃないの?
そういう見方もできてしまうね。2015年で無理にかさ上げしたとすると,それ以降もずっとかさ上げし続けなければならない。なぜなら,ほんとの数値を出すと思いっきり下がってしまうからね。そう考えると,これほど家計調査の数字と離れてしまうことが説明できてしまう。
家計調査はあくまでもGDPの家計最終消費支出を推計するための基礎資料の一つであり,これ以外にもいろいろな資料が用いられている。しかし,「結果として,2014年までの数値は,改定の前も後も世帯数を乗じた家計調査の数字と大きく乖離することもなく,グラフの動きもほぼ同じだった」という事実が重要だ。
ところが,2015年はグラフの動きが正反対になった上に,異常に差が開いた。そして,2016年からはその差がもっと開いている。
内閣府は2015年度の数字について,「詳細な資料を基に推計しなおしたら家計消費が伸びた」って説明しているけど,家計調査との乖離を考えるとなんだかものすごく怪しいね。
そうだね。これは多くの人に議論されるべき問題だね。アベノミクスがもたらした失敗の一つが,国内経済を最も左右する消費の落ち込みだからね。ここが仮にごまかされてしまったら,本当の経済の実態は見えてこない。
内訳表に近いものは一応公表されたけど,結局疑念は残るな~。
===裏話===
内閣府が「その他」について内訳表に近いものを公表したのは2017年12月22日。その2日後の同月24日,BS-TBSの「週刊報道LIFE」にて,この「その他」問題が取り上げられることが決定していた。私もVTRで出演している。24日の放送については内閣府にも伝わっていたものと思われる。
地上波ではないものの,テレビで「その他」問題が取り上げられたのはこれが初めて(その後は私が知る限り無い)。
テレビ放送の前に何とかそれらしい数字を急造して公表した,と考えるのは邪推であろうか。
=========
アベノミクス全般の問題については拙著をご覧いただきたい。下記の記事はダイジェスト。
「その他」について概要を把握したい方は下記の記事をどうぞ。
上念司氏のエンゲル係数を巡る発言にツッコミを入れてみる
エンゲル係数について,経済評論家の上念司氏がこんな発言をしている。
エンゲル係数は人工の高齢化で上がる。以上。アベノセイダーズの諸君はよく勉強しなさい。 https://t.co/4ziZdx9n5e
— 上念 司 (@smith796000) 2018年2月3日
エンゲル係数が急上昇したのは全部高齢化の影響であると理解しているようである。
上念氏が引用しているのは経済学者の田中秀臣氏のこのツイート。
「エンゲル係数が上昇して生活が苦しくなるのは安倍政権のせい。民主党時代の方がよかった」という間違った意見についてhttps://t.co/4r4Rmk1T7m
— 田中秀臣 (@hidetomitanaka) 2017年2月18日
田中氏はこのツイートで自分のブログを引用している。
さらに,そのブログは総務省統計局のレポートを引用している。
それがこちら。
ここで総務省統計局は下記のように分析している。
このエンゲル係数の推移を見ると、平成元年から平成16年にかけて低下していましたが、平成21年以降上昇しています。これは、エンゲル係数が、世帯主が60歳以上の高齢の世帯では高い傾向があるため、高齢化に伴って高齢の世帯の割合が上昇※していることなどが全体のエンゲル係数の上昇にも関係しているものと考えられます。(図1)
これが「エンゲル係数上昇は高齢化の影響」という根拠のようである。
だが,,このレポートをよく見てほしい。これは平成26年(2014年)までの調査結果をもとにした意見である。
ここでエンゲル係数の推移を見てみよう。
統計局ホームページ/家計調査(家計収支編) 時系列データ(二人以上の世帯)
上記のとおり,平成27年(2015年)及び平成28年(2016年)にエンゲル係数は凄まじい伸びを示している。
先ほどの総務省のレポートはこの2年間の伸びに関する考察を含んでいない。平成26年までの調査結果をもとにしたレポートだからである。
「高齢化の影響」であるなら,この2年間で急速に高齢化が進んだことになるが,おかしいだろう。
というわけで,ここで食料の価格指数を見てみよう。
消費者物価指数 2015年基準消費者物価指数 長期時系列データ 品目別価格指数 全国 年平均 | ファイルから探す | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
2014年あたりから唐突に急上昇している。
次に,エンゲル係数と食料価格指数のグラフを重ねてみよう。
ほぼ一致している。
次に,名目賃金指数も見てみよう。
給料はほぼ横ばい。アベノミクス開始前(2012年)と比べると,2016年は0.6ポイントしか伸びていない。
つまり,給料はほとんど変わらないのに,食料価格だけは急上昇してしまったのである。
これがエンゲル係数が急激に上がった一番の要因だと思うのだが,上念氏はどのように考えるだろうか。
エンゲル係数の上昇に高齢化も影響しているであろうことは否定しない。だが,それ「だけ」では,これほど急激に上がらない。
重要なのは「何が一番大きく影響したか」である。
それは食料価格の上昇以外に考えられない。
食料価格が急に上がったのは,消費税増税と円安が一番影響しているであろう。
増税も円安も「物価が上がる」という効果の面では全く同じである。
それが一気に来たら,食料価格が急激に上昇するのは当然である。
そして,円安はアベノミクスの効果である。
増税とアベノミクスが大きく影響し,エンゲル係数が上がった,と言うべきである。
長くなるのでこれぐらいにしておくが,アベノミクスについて詳しく知りたい方は是非拙著「アベノミクスによろしく」をお読みいただきたい。