モノシリンの3分でまとめるモノシリ話

モノシリンがあらゆる「仕組み」を3分でまとめていきます。

作者の連絡先⇒ monoshirin@gmail.com

#高プロは廃案~みんなでこの腐った法案を潰そうぜ~

ついに「働き方改革関連法案」なるものが審議入りしてしまった。

mainichi.jp

 

この法案の中には裁量労働制の拡大も含まれる予定だったが,インチキデータを使って国民を騙していたことがばれたので,その部分は削除された。

www.asahi.com

 

法案の中には,「高度プロフェッショナル制度」なるものが含まれている。略して「高プロ制」。

要綱に書いてある正式名称は「特定高度専門業務・成果型労働制」という。

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/196-32.pdf

今まで「残業代ゼロ法案」と言われてきたものである。

働き方改革法案には残業時間の上限規制も含まれているが,高プロ制の対象者にはもちろん上限規制は無い。したがって,高プロ制は上限規制を骨抜きにするものである。

厚労省の資料から高プロ制の概要を抜き出してみよう。

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/196-31.pdf

 

①職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者が、

②高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、

③年間104日の休日を確実に取得させること等の健康確保措置を講じること、本人の同意や委員会の決議等を要件として、
労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする

 

というものである。

④が強烈である。労働時間に関するすべての規制が外れるということである。休憩もなし。

裁量労働制ですら,休日や深夜の割増賃金は発生するので,明らかに裁量労働制より強烈な制度である。「スーパー裁量労働制」と呼ぶ人がいるのもうなづける。

なお,裁量労働制は一応出退勤に裁量があるが,高プロ制はそれすらない。労働者にとってのメリットは全くない。

 

年間104日の休日と言っているが,正確に言うと「1年間に104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日」である。

具体的に言うと,週休2日ならこの条件を満たす。

また,24日連続勤務させて,4日連続で休ませるということも可能。

盆も正月も祝日も勤務させることが可能。 

 

で,健康確保措置というのは,下記のいずれかを選べば良いことになっている。さっきの資料から抜粋する。

①インターバル措置

②1月又は3月の在社時間等の上限措置

③2週間連続の休日確保措置

④臨時の健康診断

繰り返すが,「いずれか」で良い。この4つのうち,一番楽なのは明らかに④の健康診断である。

では,具体的にどのような「働かせ方」が可能になるかと言うと・・・こんな感じ。

・健康診断を受けさせつつ,週休2日で毎日24時間休憩なしで働かせる。

・健康診断を受けさせつつ,24日連続毎日24時間休憩なしで働かせて4日連続休ませる。

 

殺す気か。

もちろん,これだけ無茶苦茶な働かせ方をしても,一円たりとも残業代は発生しない。

成果型労働とうたっているが,法案の中に成果給を義務付ける規定は無いので,嘘。

単に固定給のまま残業代ゼロにする企業がほとんどだろう。

嘘を平気で正式名称の中に埋め込むという狂気。

 

「ま,高給取りだけが対象でしょ?」と思うかもしれないがそれも間違い。

対象者の年収について,正確に言うとこう決められている。

労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまって支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。

 

要約すると,最初は平均年収の3倍を相当程度上回る額の人が対象ということである。

毎月勤労統計調査のボーナス等を除く月給から,平均年収を算定すると大体310万円ぐらい。だからその3倍は930万円。

スタートは少なくとも1000万円以上となっているので,「平均年収の3倍を相当程度上回る」と言える。

これが「2倍」に改正されたら,620万円を相当程度上回る年収の人が対象。

さらに「2倍」すら外されて,単に平均年収を相当程度上回る額にされると,310万円を相当程度上回る人が対象。

で,かつて経団連は年収400万円以上の人を残業代ゼロにせよと提言しています。

http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2005/042/gaiyo.pdf

 

絶対年収400万円以上ゼロにしてきますよこれは。

以前塩崎厚労大臣も「小さく生んで大きく育てる」ってはっきり言ってますからね。

とりあえず通しちゃえばいいと。

その発言がこちら。

 

フリーザ風に言えば,この高プロ制はあと2回変身の余地を残しているのである。

2回改正を重ねて,3倍⇒2倍⇒1倍にすれば,経団連の野望は達成できる。

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引用元:ドラゴンボール ©鳥山明

 

これほど長時間労働が問題になっているというのに,残業代ゼロにするというのは狂っている。

残業代は長時間労働にブレーキをかけるために存在するのである。

そして,残業代不払いが横行しているので,全然ブレーキが利かず,長時間労働が無くならない。

私自身,残業代が払われない企業に勤務していた経験があるので身に染みて良くわかる。

「残業代なくせば早く帰るようになるでしょ」とのたまう者がいるが,ブラック企業で一度働いてから言えこの馬鹿野郎!

 

それにしても,ふざけている。

裁量労働制はデータをねつ造して国民を騙したのがばれたので引っ込めた。

しかし政府は裁量労働制よりもっと強烈なやつを通そうとしている。「時間ではなく成果で評価する制度」などとまた嘘をついて。

おかしいだろ,これ。

「殴ってごめんなさい。今度はもっと強い力で殴っていいですか?」と言われてる気分である。

なお,経済政策の観点からも間違っている。

高プロ制は単に残業代をカットして賃金を下げるのが目的の政策である。

賃金下げたら物価なんぞ上がるわけないじゃないか。

それとも賃金は下がってもいいからとにかく物価を上げたいとでもいうのか。

そしたら実質賃金が下がって生活が苦しくなるだけである。経済成長もできない。

やるべきことは逆なのだ。残業代不払いを徹底的に取り締まってきちんと残業代を払わせ,給料を上げていかなければ物価が上がっていくはずがない。

 

この問題に右派も左派も無いだろう。

国民総がかりで高プロ制は潰していくべきである。

 

今はSNSが発達しているので,国民一人一人が発信者になることができる。

「#高プロは廃案」というハッシュタグSNSで大拡散させて,国民の声を国会に届けよう。

1人1人の発信力を結集して高プロを廃案に追い込もう。我々は無力ではない。

 #高プロは廃案


おいおい,総務省統計局が怪しい数字を開発したぞ。みんな拡散して。

つい最近,総務省統計局が「消費動向指数」なる新しい統計を発表した。

今回はそれにツッコミを入れようと思うが,本題に入る前に,「カサアゲノミクス現象」について説明しておく。

簡単に言うと,平成28年12月に,日本のGDPが22年もさかのぼって改定されたのだが,アベノミクス以降が異常にかさ上げされているという現象である。

特に,家計最終消費支出のかさ上げが凄まじい。

日本のGDPの約6割を占めるのが民間最終消費支出。つまり,民間消費の総合計。

そして,民間最終消費支出の約98%を占めるのが家計最終消費支出。

家計最終消費支出が伸びなければ,日本のGDPは伸びない。

 

で,改定前の名目家計最終消費支出の推移はこんな感じだった。

単位は兆円。なお,この記事では全部暦年データを使う。

f:id:monoshirin:20180501203523p:plain

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2016/qe163/gdemenuja.html

2014年から2015年にかけてカクンと落ちている。

そして,2015年よりも,2004年~2008年及び2014年の方が高い数値を示している。

 

ところが・・・改定後の数字がこちら。

f:id:monoshirin:20180501203934p:plain

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h28/h28_kaku_top.html

2015年の数字が史上最高額になっている・・・。しかも,改定前は,2014年から2015年にかけてカクンと落ちていたのに,逆に上昇した。グラフの向きが正反対になったということである。

 

改定前後で家計最終消費支出がどれほどかさ上げされたのか,差額を抜き出したのが下記のグラフ。

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2015年が昇竜拳みたいにかさ上げされている。その額なんと約8.5兆円。

アベノミクス以降でかさ上げ額1位~3位を独占。

そして,90年代はむしろかさ下げされている。全部マイナスですからね。

 

こんなん歴史の書き換えじゃねえか。野党の皆さん,ほんとマジでこれ騒いでよ。

 

そして,こんなに無茶なかさ上げをしたのだから,他の統計と齟齬がでるんじゃあるまいかと私は考えた。

消費関係で他に政府が公表しているデータと言えば,総務省統計局の家計調査における家計消費指数である。

その推移がこちら。

f:id:monoshirin:20180212224506p:plain

統計局ホームページ/家計調査 家計消費指数 結果表(2015年基準)

 

2013年に上がったが,その後はものすごい勢いで落ちている。アベノミクス万歳。

だた,これは各世帯の消費指数であり,総世帯の合計指数ではない。

 

そこで,単純に家計消費指数に世帯数をかければ,家計最終消費支出に近い数字が出るのではないか,と私は考えた。

世帯数の推移は下記のとおりである。

f:id:monoshirin:20180211161535p:plain

国民生活基礎調査 2016年 | ファイルから探す | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口

 

だが,これはそのままだと使えない。ぼっこり落ち込んでいる部分があるが,それは震災の影響で世帯数を把握できなかったからである。

ところが,各県のHPを見ると,震災があったときの世帯数もちゃんと載っている。

そこで,各県のHPで公表されている世帯数を足して補正したものがこちら。

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福島県(各年10月1日現在)

宮城県(10月末現在)
岩手県(3月末しかないので3月末)
熊本県(10月1日現在)
※1000世帯以下四捨五入したものを追加。福島が10月の数字を公表しているので,他もそれに合わせたが,岩手は3月末しかないので3月末の数字を採用。

 

で,この補正した世帯数に家計消費指数を乗じ,改定前の名目家計消費支出と比較したグラフがこちら。2002年を100とした指数で比較している。

f:id:monoshirin:20180211163245p:plain

 

思ったとおりだ。ほとんど同じ傾向を示している。グラフの動く向きが異なるのは2006年だけ。後は方向が全部一致し,乖離幅も小さい。

 

だが・・・改定後の家計最終消費支出と比較すると,恐ろしい結果が露わになる。

f:id:monoshirin:20180211163523p:plain

2014年まではほとんど同じ傾向だが,2015年からの乖離幅が異常。

2015年はグラフの動きが正反対。2016年は動く方向は同じだが,乖離幅は広がっている。

 

改定前後の家計最終消費支出について,家計消費指数×世帯数との乖離幅のみを比較したグラフがこちら。

f:id:monoshirin:20180211163905p:plain

改定後の家計最終消費支出の異常さについてお分かりいただけただろうか。

もう,無理くりかさ上げしているとしか思えない。

 

さて,ここまでは前置きである。これからが本題。

 

総務省が平成30年1月分から「消費動向指数」なるものを公表し始めた。

データはこちらから入手できる。

www.e-stat.go.jp

 

このデータについての総務省のサラッとした説明は下記のとおり。

消費動向指数は,家計調査の結果を補完し,消費全般の動向を捉える分析用のデータとして総務省統計局が開発中の参考指標です。家計消費指数を吸収するとともに,単身世帯を含む当月の世帯の平均的な消費,家計最終消費支出の総額の動向を推計しています。

家計調査では,単独世帯と総世帯について,毎月ではなく四半期ごとに公表していたが,この「消費動向指数」では,単独世帯も総世帯も毎月公表される。そして,総額についても,毎月指数が公表されるというのである。

 

この総額というのは,「総消費動向指数」として,2015年を100とした指数が公表されている。これはGDPの家計最終消費支出に対応するものらしい。

おや?じゃあこの指数と内閣府が公表している家計最終消費支出との関係はどうなるんだ?総務省内閣府とは別に総額を計算して公表しているのか?でもそれで内閣府の数字とずれたらまずいだろう?

と思い,この「総消費動向指数」なるものと,先ほど見た家計最終消費支出について比較してみた。家計最終消費支出については2015年を100として指数化した。

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一致。なんだ。やっぱり同じものじゃん。

総消費動向指数とは,少なくとも過去分については内閣の公表している家計最終消費支出をただ単に指数化しただけのものである。違いは毎月分を推計して公表していることだけか。

 

あのとっても怪しい家計最終消費支出と一致するのが総消費動向指数ということである。

 

念のため実質値についても比較してみた。

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同じである。

それにしても実質で見ると悲惨である。2017年は2013年より下。4年間全然伸びていないことになる。原因は消費税増税に円安を被せて物価を思いっきり上げたからである。その物価の伸びに賃金が全然追い付かず,実質賃金が落ちた。賃金減ったら実質消費が伸びるわけがない。あんなに怪しいかさ上げをしてもこの程度。

 

では,各家庭の消費動向指数との比較はどうか。家計消費指数と,世帯消費動向指数を比較してみた。

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2016年までは完全に一致。単純に過去のものを流用したのだろう。

2017年は,消費動向指数の方は実質と名目共に下降しており,家計消費指数の方は両方とも若干上向いている。

消費動向指数の方を見ると4年連続で下落しているということだ。悲惨。

 

さて,問題はなぜ「消費動向指数」なるものが編み出されたか,である。

 

前述のとおり,各世帯の家計消費指数に,世帯数を乗じた数字と比較すると,どう見ても辻褄が合わなくなっている。

そういう計算をしなくても,端的に「各家庭の消費指数がこれだけ落ちているのに,家計最終消費支出が落ちていないのはおかしいのではないか」と思われる恐れがある。

内閣府が公表している数字と総務省が公表している数字の辻褄があっていない」ということである。これに気づかれると,まずい(とはいえ,気付いているのはおそらく私だけだが・・・)

 

そこで,辻褄を合わせるため「総消費動向指数」なるものを編み出した,と考えるのは邪推であろうか。この数字があれば,内閣府の出す数字と総務省の出す数字が合っているように見えるので,かさ上げを覆い隠すことができる。

 

 ほんとこの問題は国会で追及してほしい。なお,カサアゲノミクスについて詳しく分析した記事はこちら。

blog.monoshirin.com

 

カサアゲノミクス問題については,某野党の議員から電話で話を聞かれたことがあり,おそらく国会で質問するんだろうな~と思っていたら,森友のスクープがあって吹っ飛んでしまった。本気で追及したらこっちの方がヤバイと思うんだが。

とはいえ,森友問題のおかげで「官僚は改ざんとかしないだろう」という世間の常識は見事に打ち破られたので,カサアゲノミクス問題が受け入れられやすくなる土壌ができたかもしれない。

 

アベノミクスの失敗について知りたい方は拙著「アベノミクスによろしく」をどうぞ。

blog.monoshirin.com

 

現在発行部数4万部であるが,それでは世論にさざ波程度の影響も出ない。もっと多くの方に読んでいただきたいと思っている。

さあ,財務省の文書改ざんの次はそろそろGDPねつ造疑惑を追及してくれ

厚労省裁量労働制データねつ造に続き,財務省が文書改ざんを認めたことで,行政府が出してくる資料の信頼性が根本的に揺らいでいると言えると思う。

 

というわけで,そろそろGDPねつ造疑惑についても追及してほしい。

今までは「まさか官僚がそこまでやらないだろう」ということで信じてもらえなかったかもしれない。

しかし,一連の事件により「日本の官僚はねつ造や改ざんまでやるレベルに落ちてしまった」という認識は広く共有されるに至ったと言えるだろう。

今こそGDPねつ造疑惑を追及する好機と言うべきである。

 

拙著「アベノミクスによろしく」を読んだ方やこのブログの読者はもう知っていると思うが,改めて説明する。

2016年12月8日,内閣府は新しい算出基準によるGDPを公表した。これに伴い,1994年度以降のGDPが全て改定された。

改定の概要は非常に単純化すると下記のとおり。

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h27/sankou/pdf/point20161222.pdf

1.実質GDPの基準年を平成17年から平成23年に変更

2.算出基準を1993SNAから2008SNAに変更

3.その他もろもろ変更

4.1994年まで遡って全部改定

 

「その他もろもろ変更」が最も重要なので覚えておいていただきたい。

この部分は,2008SNAとは全く関係無い。

以下,改定前の数値を「平成17年基準」,改定後の数値を「平成23年基準」と呼ぶ。

 

改定によって大きく名目GDPがかさ上げされた。改定前後を比較すると下記のとおり。

f:id:monoshirin:20161228225019j:plain

 

平成17年基準(青線)では,1997年度の521.3兆円が過去最大値であった。2015年度の500.6兆円と比較すると約20兆円もの差がある。

ところが,平成23年基準(オレンジ)では,1997年度がピークであることに変わりはないが,その額は533.1兆円。

他方,直近の2015年度の数字がなんと532.2兆円になっており,1997年度とほとんど同じ額になっているのである。

20兆円も差があったのに,改定によってその差が埋まってしまったということだ。

なぜそのようになるのか。下記のグラフを見ていただきたい。これは改定によるかさ上げ額を抜粋したものである。

f:id:monoshirin:20161228225423j:plain

アベノミクス開始後の2013年度以降の額が突出しているのが分かるだろう。

2015年度なんて31.6兆円もかさ上げされている。これはアベノミクス開始直前である2012年度の約1.5倍である。

これをかさ上げ率にしてみると下記のとおり。

 

f:id:monoshirin:20161228225516j:plain

アベノミクス開始以降だけ5%を超える高いかさ上げ率を記録しているのが分かる。

問題は,このかさ上げの内訳である。以下,内閣府公表資料から抜粋する。

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h27/sankou/pdf/point20161222.pdf

f:id:monoshirin:20161228230509j:plain

かさ上げ額の内訳を大きく2つに分けると,

1.2008SNA対応によるもの

2.「その他」

である。

 

2008SNAというのはGDPの国際的な算出基準である。以前は1993SNAを使用していた。この算出基準の変更によって研究開発費等がGDPに加えられるので,名目GDPが大きくかさ上げされる。

www.nikkei.com

 

まずは2008SNA対応によるかさ上げ額から見てみる。

f:id:monoshirin:20161229001042j:plain

これをかさ上げ率にすると下記のとおり。

f:id:monoshirin:20161229001406j:plain

2015年度が1位,2014年度が2位,2013年度が3位。アベノミクス開始以降の年度が上位をすべて占めている

だが,最も重要なのは「その他」のかさ上げ額だ。以下のグラフを見ていただきたい。

f:id:monoshirin:20180316193216p:plain



アベノミクス開始以降の年度が異常にかさ上げされているのが一目瞭然である。アベノミクスの開始前とは全く比較にならない。

「その他」のかさ上げ額がプラスになること自体,過去22年度でたった6回しかない。そのうちの半分をアベノミクス以降が占めている。

さらに,アベノミクス前だと,「その他」の最高かさ上げ額は2005年度の0.7兆円。他方,アベノミクス開始以後だと下記のとおり。

・2013年度4兆円

・2014年度5.3兆円

・2015年度7.5兆円

 

桁が違い過ぎる。

そして,特に1990年代を見ていただきたい。かさ上げどころか,かさ「下げ」されている。全部マイナスである。1994年度なんてマイナス7.8兆円。

 

そして,かつて史上最高額を記録していた1997年度に注目である。「その他」で5兆円もマイナスになっている。

 

2015年度の名目GDPは「2008SNA対応」で24.1兆円,「その他」で7.5兆円もかさ上げされ,合計で実に31.6兆円のかさ上げ。

 

他方,改定前に史上最高額だった1997年度は,「2008SNA対応」で16.9兆円,「その他」でマイナス5兆円,合計で11.9兆円のかさ上げ。

 

同じ基準で改定したはずなのに,かさ上げ額に20兆円も差があるのだ。

その原因は,2008SNA対応部分でのかさ上げにも大きく差がある上,「その他」でさらに差を付けられたからである。

「その他」の部分だけ見ると,2015年度と1997年度には実に12.5兆円もの差が付いている。

 

この結果,改定後の2015年度名目GDPは,史上最高額である1997年度にほとんど追いついた。

そして・・・2016年度の名目GDPは1997年度を追い抜き,史上最高の537.5兆円を記録した。

 

もう一度言う。「その他」は2008SNAと全く関係無い。

この全く関係無い部分でかさ上げ額の不自然な調整がされ,2016年度名目GDPが「史上最高」を記録するという現象が起きている。

 

「その他」の影響力がどれほど大きいのか。グラフで確かめてみよう。

下記は「その他」を含めた平成23年基準のグラフである。1997年度と2015年度がほとんど同じ額になっており,その差は0.9兆円しかない。

f:id:monoshirin:20180211165205p:plain


ここから「その他」を除いたのが下記のグラフである。

1997年度の方が13.4兆円も高い。

f:id:monoshirin:20180211165353p:plain


お分かりいただけただろうか。「その他」によって,1997年度を含む90年代の数値が大きく下げられ,他方でアベノミクス以降が思いっきりかさ上げされたのである。

この改定によって日本経済の歴史は書き換えられてしまったと言ってよいだろう。

私はこの現象を「カサアゲノミクス」と名付けた。

ただ,90年代は「その他」で大きくかさ「下げ」されていることも考慮すると「アゲサゲノミクス」と言った方が良いかもしれない。

 

私がピーチクパーチク騒いだ影響か,内閣府は,改訂から1年以上経過した平成29年12月22日になって,「その他」の内訳に近いものを公表した。

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なぜ「内訳に近いもの」という微妙な表現になるかというと,内閣自身がこんなことを言っているからである。

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/gaiyou/pdf/point20161208_2_add.pdf

本資料で掲げた「1.」から「3.」のそれぞれの項目は相互に影響し合っており、またここに掲げた以外の推計方法変更や基礎統計の反映などの影響もありこれらの要因を厳密に分解できるわけではないこと、また、商業マージンの改定額については記録時点も異なっている(暦年値)ことや中間消費や最終需要といった配分先ごとの改定額を計算することが困難であるため、そのすべてが最終需要に配分されたとの仮定を置いた計算となっていることなどから、本資料の結果については、幅をもって見る必要がある。

要するに,これ以外にも項目があると言っているのである。「厳密に要因を分解できない」と言ってお茶を濁している。

結局,「その他」に近くなるような数字を切り出して急造したようにも見える。

裏話をすると,内閣府がこの資料を公表した2日後にBS-TBSにて,この「カサアゲノミクス」疑惑が取り上げられることが決定していた。私もVTRで出演した。内閣府ももちろん放送日程を把握している。

テレビ放映前に急いで作ったと考えるのは邪推であろうか。

 

この「内訳表に近いもの」に関する詳細な分析は下記の記事。

blog.monoshirin.com

 

色々怪しい点があるのだが,最も怪しいのは家計最終消費支出と,総務省の家計調査とのズレである。その点を上記記事から抜粋する。

 

総務省は家計消費指数というものを公表している。

統計局ホームページ/家計調査 家計消費指数 結果表(2015年基準)

これは各世帯の消費支出を指数化したもの。

この数字に世帯数を乗じれば,GDPの項目の一つである「家計最終消費支出」と近い推移を示すのではないかと私は考えた。

(世帯数については,厚生労働省国民生活基礎調査の数字をそのまま使用すると,震災時の世帯数が大幅に減少してしまうため,各県が公表している世帯数で震災時の数字を補正した。詳しくは「カサアゲノミクスの分析」に記載)

なお,家計最終消費支出というのは,GDPの6割を占める「民間最終消費支出」の約98%を占めるもの。この数字が日本経済の心臓と言ってよい。

 

そこで,「家計最終消費支出」と「家計消費指数×世帯数」を比較したのが下記のグラフである。まずは改訂前の平成17年基準と比較する。

f:id:monoshirin:20180211163245p:plain

ほとんど同じ動きを示しているのが分かる。グラフの動く方向が違っているのは2006年のみ。グラフの乖離幅も小さい。

 

ところが・・・・これを改定後の平成23年基準と比較すると凄いことになっている。

 

f:id:monoshirin:20180211163523p:plain

改定後の数字も2014年まではほとんど同じ動きをしており,乖離も小さい。しかし,2015年に「家計消費指数×世帯数」は急落しているのに,平成23年基準は逆に上昇している。グラフの動く方向が正反対になっている。乖離幅も異常である。

 

そして,2016年はグラフの動く方向こそ同じだが,乖離幅はもっと大きくなっている。

 

ここで,改訂前後の家計最終消費支出と,「家計消費指数×世帯数」の乖離幅を比較したのが下記のグラフ。

f:id:monoshirin:20180211163741p:plain

平成23年基準(赤線)の乖離幅が,2015年になって突然異常に跳ね上がっているのが分かるだろう。2015年は4.3,2016年は5.6もある。

他方,平成17年基準(オレンジ線)の乖離幅は,最高でマイナス1.8である。

 

要するに,2015年の家計最終消費支出を思いっきりかさ上げしたのではないか,ということである。

拙著を読んだ方はもうご存知かと思うが,アベノミクス最大の失敗は消費を思いっきり落ち込ませてしまったことである。しかし,改訂のどさくさに紛れて家計消費をかさ上げし,その失敗を糊塗したように見えるのである。

 

一度かさ上げに手を染めたら,その後もずっとかさ上げする必要がある。なぜなら,本当の数字を出すと急激に落ち込んでしまうからである。

そして,かさ上げを続ければ続けるほど,他の統計とつじつまが合わなくなってくる。

上記のグラフはそのような現象が起きていることを示唆している。

 

是非この問題についても追及していただきたい。

 

アベノミクスの失敗について知りたい方は拙著「アベノミクスによろしく」をどうぞ。

下記記事はダイジェスト版。

blog.monoshirin.com