【番外編】ラグビー日本代表が南アフリカ代表に勝ったことの凄さを詳細にまとめてみる(5)
ラインアウトというのは,ボールがタッチラインの外に出た場合に発生するセットプレーだ。
フッカーがボールを投げ入れて,主にロックの選手がそのボールをキャッチする。
実際のラインアウトを見てみよう。これは南アフリカのマットフィールドを特集した動画だ。ラインアウトの場面がたくさん写っている。
これ,背が高い方が有利だね。
そのとおりだ。高さで相手に勝っていれば,ボールを確保できる可能性は非常に高くなる。
世界レベルだと,ラインアウトでジャンパーを務めるロックの選手の身長は2メートルを超えるのがほとんどだ。
南アフリカも,左ロックのマットフィールドは201センチ,右ロックのデヤガーは205センチもある。
ちなみに,マットフィールドは38歳。南アフリカの「レジェンド」と言われるほどの選手で,ラインアウトの名手だ。
日本はそんなに背の高い人いるの。
左ロックのトンプソンは196センチ,右ロックの大野は192センチだ。
他に背の高い選手と言うと,右フランカーのブロードハースト(196センチ)がいる。
2メートル台の選手はいないんだね。高さはでは圧倒的に負けてるな。
そうだ。ジャンパーを持ち上げるリフターの身長も南アフリカの方が高いから,まともに張り合うと極めて不利になる。
高さ以外の創意工夫が必要になるね。
そのとおりだ。その創意工夫の跡を,ラインアウトの受け手の比較で確認してみよう。
まずは南アフリカだ。下記の表は各ラインアウトでの受け手とその身長,及びポジションだ。
NO | 受け手 | 身長 | ポジション |
---|---|---|---|
1 | マットフィールド | 201 | 左ロック |
2 | ロウ | 190 | 右フランカー |
3 | デヤガー | 205 | 右ロック |
4 | マットフィールド | 201 | 左ロック |
5 | マットフィールド | 201 | 左ロック |
6 | マットフィールド | 201 | 左ロック |
7 | バーガー | 193 | ナンバーエイト |
8 | デヤガー | 205 | 右ロック |
9 | デュトイ | 200 | 左フランカー |
10 | マットフィールド | 201 | 左ロック |
11 | デヤガー | 205 | 右ロック |
12 | マットフィールド | 201 | 左ロック |
13 | デヤガー | 205 | 右ロック |
14 | デヤガー | 205 | 右ロック |
15 | マットフィールド | 201 | 左ロック |
全15回中,マットフィールドが7回,デヤガーが5回で,左右のロックがほとんどを占めているね。
それ以外の3回のうち1回は身長2メートルのデュトイだから,2メートル未満の選手が受け手になったのは2回しかないね。
そうだ。南アフリカが高さを生かしたラインアウトをしているのがここから分かるだろう。
では次に日本を見てみよう。
NO | 受け手 | 身長 | ポジション | 備考 |
---|---|---|---|---|
1 | 立川 | 181 | センター | |
2 | トンプソン | 196 | 左ロック | |
3 | トンプソン | 196 | 左ロック | ターンオーバーされた |
4 | 大野 | 192 | 右ロック | |
5 | ツイ | 189 | ナンバーエイト | |
6 | トンプソン | 196 | 左ロック | ここからトライ |
7 | ツイ | 189 | ナンバーエイト | |
8 | ツイ | 189 | ナンバーエイト | |
9 | リーチ | 190 | 左フランカー | |
10 | ブロードハースト | 196 | 右フランカー | |
11 | トンプソン | 196 | 左ロック | ここからトライ |
12 | ブロードハースト | 196 | 右フランカー |
全12回中,ロックが受け手を務めたのはトンプソンが4回,大野が1回だね。
ロックが受け手になっているのが半分以下ってことだな。南アフリカと大違いだ。
そうだ。トンプソンと同じ身長のブロードハーストも受け手になっているけど,2回だけだ。
南アフリカと比べると受け手がバラバラだから,相手は的を絞りづらいね。
そうだ。日本代表は高さで勝負していないと言い得る。
だいたい,最初の立川なんてフォワードですらないじゃん。これ,どういうこと?
それは下記の動画を見てごらん。
※該当シーンから再生開始します。
これ,相手はびっくりするね。いきなりどこに投げてんのってなるよ。
そうだね。堀江がはるか彼方にボールを投げて,そこに走り込んだ立川がキャッチしている。
これは堀江の卓越したスローイングスキルを示す好例だ。
ラインアウトの際,ボールは真っ直ぐ投げ入れなければならない。右や左にそれると「ノットストレート」という反則を取られる。
あれだけの長い距離を真っ直ぐ投げるって,凄いね。
そうだ。長距離を真っ直ぐ投げるには,ボールの先端が進行方向に真っ直ぐ向いていなければならない。さらに,ボールの回転も重要だ。
前に銃のところで説明していた,回転すると物体の姿勢が安定するジャイロ効果のことね。
そのとおり。堀江の投げるボールは非常に美しい回転がかかっていて,ボールの先端も真っ直ぐ進行方向を向いている。
それに加え,ボールの速度も非常に早く,しかも正確だ。間違いなく世界最高レベルのスローイングだろう。
この試合,日本はラインアウトにおいて1度の失敗を除き全てボールをキープした。それは堀江の卓越したスローイングスキルが大きく貢献している。
他にも工夫したところを見てみよう。このシーンを見てごらん。
※該当シーンから再生します。
投げるまでが異常に早いね。カメラも追い切れてないくらいだ。しかもジャンプして取らせるんじゃなくて,一番前にいるツイにそのままいきなり投げてる。
そうだ。このようにクイックスローイングをして相手に邪魔するスキを与えないようにしている。
こちらのトリックプレーも面白い。見てごらん。大野の位置に注目だ。
※該当シーンから再生します。
いつの間にか一番後ろにいた大野がジャンパーになってるね。
そうだ。ラインアウトの列から離れて立っていたツイが投げる瞬間に列に加わり,大野を持ち上げている。
※上記動画から引用
凄いトリックプレーだな。
そうだね。では最後に,ラインアウトからトライを奪ったシーンを見てみよう。
※該当シーンから再生します。
トンプソンがボールをキャッチした後に注目だ。
ボールを少しずらしてブロードハーストに渡しているね。
そのとおり。こうやって少しずらすことによって,有利な体勢が組みやすくなる。
そしてその後,モールに小野(10番),立川(12番),松島(11番)のバックス3人が参加しているのが分かるだろう。
ちなみに,モールというのは,ボールを持った状態でそのまま多人数で固まって押し込んでしまうという技だ。
モールを組む場合,参加するのは基本的にフォワードだけだ。バックスは,モールで押し込みきれなかった場合に備えて,後ろでラインを形成して待つのが普通だ。
そのセオリーに反して,バックスも参加したんだね。合計11人になるから,フォワード8人だけで対抗している南アフリカはひとたまりもないね。
そうだ。セオリーに反する大技でトライを奪った。
それもラインアウトでボールを確保できたからこそだ。
ちなみに,トンプソンは4回受け手になっているけど,そのうち2回が上記の場面も含めトライに繋がっている。
日本代表は大事な場面ではトンプソンを使ったと言えるかもね。
そうだね。そしてそこでボールを確保できたのは,創意工夫をして的を絞らせなかったからと言えるだろう。
では次に,後半の五郎丸のトライについて見てみよう。
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