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モノシリンの3分でまとめるモノシリ話

モノシリンがあらゆる「仕組み」を3分でまとめていきます。

作者の連絡先⇒ monoshirin@gmail.com

リーマンショックを越える衝撃を消費に与えたアベノミクス

今回はアベノミクスが消費に与えた影響を,増税のことも踏まえて深く掘り下げて考える。

 

アベノミクスによろしく」等の記事では,全て暦年のデータを使用している。その方が分かりやすいと考えたためである。例えば,下記の実質民間消費支出のグラフもそうである。

 

f:id:monoshirin:20160528203755j:plain

内閣府の統計データを元に作成。

 

しかしながら,増税の影響を正確に捉えるには,年度(4月~翌年3月)で区切ったデータの方が良い。なぜなら,増税は年度の変わり目である4月1日になされるからである。

例えば,暦年データだと,駆け込み需要がピークになると思われる2014年の1月~3月までが2014年に入ってしまう。

他方,年度データだと,2014年1月~3月は2013年度のデータに入る。したがって,2014年度のデータからは駆け込み需要の効果を取り除ける。つまり,増税後に消費がどうなったのかをより正確に捉えることができる。

そこで実質民間最終消費支出の過去22年度のグラフを下記に示す。

f:id:monoshirin:20160702165106j:plain

内閣府の統計データを元に作成。

 

暦年データと比べると,2014年度の落ち方がより激しいことが分かるだろう。これは前述のとおり,駆け込み需要で伸びた分が除外されるからである。

年度で見ると,過去22年度のうち,前年より下がったのは4回しかない。

1997年度は3%から5%への消費増税があった年度であり,2008年度はリーマンショックが起きた年度である。

いずれの年度も,翌年度にはもう上昇に転じている。

しかし,2015年度は前年度に引き続いて下がっている。

内閣府のデータは1956年度のものから遡ることができるが,すくなくともその範囲では2年度連続で下がったことは無い。

1955年からの需要項目別一覧 - 内閣府

おそらく「実質民間最終消費支出が2年度連続で下がる」という現象は戦後初であると思われる。 

 

そして,前年より下落した4年度について,下落額(単位は10億)と下落率を一覧にしたのが下記表である。

年度前年度から
の下落額
前年度からの
下落率
1997年度 2752.1 1.01%
2008年度 5997.5 2.02%
2014年度 9029.5 2.86%
2015年度 746.8 0.24%

 

2014年度の落ち方がずば抜けている。下落率はあのリーマンショックの起きた年度をも超えているのである

だが,もっと驚くべきなのは,そのリーマンショック以上の下落率を示した2014年度よりもさらに2015年度は前年度比0.24%下落してしまったのである。これは前述のとおりおそらく戦後初の異常事態。

なお,2013年度と2015年度を比較すると,下落額は9兆7763億円,下落率は実に3.09%になる。

この原因は,再三指摘しているとおり,物価を急に上げ過ぎたからである。

下記のグラフは過去22年度の消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)。なお,暦年の2010年の指数を100としている。

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出典:統計表一覧 政府統計の総合窓口 GL08020103

 

2014年度は前年度に比べて3.6も急上昇している。

ここで日銀の試算によれば,3%の増税による物価上昇効果は,2%らしい。

https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1404b.pdf

ということは,ざっくり考えて,2014年度に増えた3.6ポイントのうち,1.6ポイントは増税以外の要因ということである。

これは黒田バズーカによる円安の影響と考えて間違いないだろう。

2014年度の物価上昇の9分の4は黒田バズーカがもたらしたということである。

 

増税した年度は消費が冷える。それは,物価が上がることに加え,駆け込み需要によって需要が先食いされているため,反動減があるからである。

過去の例を見ると,増税した1997年度の実質民間最終消費支出が前年度比で1.01%落ちているのはそのせいだろう。

そして,2014年度はこの「増税による物価上昇」「駆け込み需要の反動減」に,「円安による物価上昇」が加わったため,前年度比2.86%も消費が冷えたのである。

アベノミクスはただでさえ消費が冷えるところに追い打ちをかけた。

病人を水風呂に突っ込むようなものである。

 

そして,2014年度で3.6ポイントも物価が上昇したところへ,2015年度もさらに物価を上げたため,「2年度連続で実質民間最終消費支出が下がる」という超異常現象が起きた。これは内閣府のデータで遡れる範囲で初の現象である。

 

ではこれが年度で見たGDPにどのような影響を与えたのか見てみよう。

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ちょっと分かり難いかもしれないので,アベノミクス開始前後の4年度をピックアップする。

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内閣府の統計データを元に作成。

 

 

ここでポイントになるのは,2015年度の実質GDPは2013年度を下回ったということである。

つまり,アベノミクス開始後の日本経済は,駆け込み需要で伸びた2013年度を超える成長ができていないということである。これは明らかに消費の冷え込みが影響している。

そして,過去22年度において,「2年度前より実質GDPが下がる」という現象が起きたのは5回しかない。アベノミクスはその5回のうち1回を占めるということである。

このように,年度で見た場合,アベノミクスの失敗はより際立ったものとなる。

アベノミクスによろしく」も暦年ではなく年度で作った方が良かったかもしれない。。。。。

 

アベノミクスの消費への影響をより深く掘り下げてみる 

アベノミクスが消費に与えた影響をさらに深堀りする。

これは,左軸に実質民間最終消費支出,右軸に名目賃金,実質賃金,消費者物価指数の3指数を取ったグラフである。全て年度の数字。

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名目賃金指数と実質賃金指数は厚生労働省「毎月勤労統計調査」を元に作成。

※データラベルをつけるとごちゃごちゃしすぎるのでつけていない。

 

名目賃金指数(オレンジ)及び実質賃金指数(緑)は1997年度をピークに概ね下落基調である。そして,名目賃金ほど急激ではないが,物価も2012年度までは概ね下落基調である。

物価は1998年をピークに,2005年度まで落ち続け,そこから緩やかな上昇に転じ,2008年度に急上昇している。その後また下落に転じ,2012年度まで下がっている。

正にデフレである。

なお,2008年度は,内閣府によれば下記の事情があったとのこと。

2008年に入ると,原油・原材料価格や穀物などの国際商品市況の上昇により、ガソリン価格の顕著な上昇がみられ始め、食料・日用品価格の上昇もみられた。

 

http://www5.cao.go.jp/j-j/cr/cr08/chr08_1-2-1.html 

こうやって見てみると,アベノミクス開始以前は,賃金も物価も概ね下落し続けてきたということが言えるだろう。

 

ところが,2013年度以降,まるで上から誰かが引っ張りあげたかのように急に物価が上昇したので,実質賃金が急激に落ちたのが分かると思う。少なくとも過去22年度で最低である。

それまで大体同じような動きをしていた3指数は,突如として全く違う動きを示している。

そして,実質賃金と実質民間最終消費支出の落ち方は見事にシンクロしている。

賃金が下落基調なのに,無理やり物価を上げたらこうなるのは当然である。

 

なぜ,賃金・物価が下がっているのに消費は伸びてきたのか

上記のグラフを見て,「なんで賃金と物価が下がっているのに消費はずっと伸びてきたのか」と疑問に思った方もいるだろう。私もそうである。

人口が増えたからだろうか?まずは人口の推移を見てみよう。

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※参照:総務省統計局。単位は千。

 

人口は2008年をピークにして減っていく傾向にある。

1994年と2015年を比較すると,人口は184万5000人,約1.5%しか増えていない。

 

では,世帯数はどうか。

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※参照:総務省統計局。単位は千。

※1995年に下がっているのは阪神大震災の影響で兵庫県が除かれたため。

※2011年に下がっているのは東日本大震災の影響で被災3県が除かれたため。

 

人口と違って世帯数は伸び続けている。2015年と1994年を比較すると,829万2000世帯,約20%も増えているのである。

 

世帯数が増えるのは,核家族化,未婚者の増加,離婚の増加,色々考えられる。日本人はだんだんとばらばらに暮らしていく傾向にあるようである。

そして,ばらばらに暮らす方が,消費への出費は増えるだろう。

例えば,実家暮らしだった人が1人暮らしを始める場面を想像してほしい。

家賃,水道光熱費は新たに出費しなければならないし,家具も家電も新しく買わなければならない。また,1人でいる方が自由にお金を使う傾向があるかもしれない。

 

世帯が増えるということは,いわば「消費ユニット」が増えると言えないだろうか。

賃金・物価が下がっているのに実質民間最終消費支出が伸びるのはこれが原因と思われる。

つまり,売る物の「単価」は下がっていくものの,消費ユニットは増えているので,「数」は増加しているのではないか。

売上は単価×数であるから,単価を下げ,その分を数でカバーして消費が伸びてきたと言えるのではないか。

 

 「デフレスパイラル」という言葉をよく耳にする。これは,単価が下がる⇒企業儲からない⇒給料減る⇒もっと単価下がる⇒企業さらに儲からない,という悪循環である。

日本がそういう悪循環に陥っていると色々な人が言うし,私もそう思っていた。

しかし,現実を見ると,必ずしもそうはなっていない様に見える。消費は伸びているのだから,企業の利益は下がっているとは言えないのではないか。

デフレスパイラル」という概念は,「数」を忘れていないか。単価を安くしても数が売れれば逆に利益は増えていく。

 

そして,アベノミクスは無理やり物価を上げたので,数が売れなくなり,その結果消費が異常に冷え込んだのだと思う。

それは結局企業が儲かっていないということ。だから,円安の恩恵を受けた輸出企業を除き,賃金が上がってこないのは当然だろう。

最近はまた円高になっているので,物価は下がってきている。だから,消費は回復してくるかもしれない。

 

増税しなかったらどうなっていたか?

アベノミクスを支持する人の中で「増税さえなければうまくいっていた」という意見を言う人をよく見かける。

 

2015年度の消費者物価指数は,2012年度と比較すると5ポイント上昇している。

前述のとおり,日銀の試算によると,増税による物価上昇への影響は2%ということだから,単純に考えて,5ポイントのうち3ポイントは黒田バズーカによるものと言ってよいだろう。

つまり,3年間で見ると,黒田バズーカの方が物価上昇に与えた影響が大きいということである。

賃金が上がらない中で,3年間で3ポイントの物価上昇でも相当な影響があるだろう。だから増税しなくても消費は低迷していたと言えるのではないだろうか。

しかし,結局のところ,仮定の話は意味が無い。重要なのは今後も金融緩和を継続して効果が出るのかということだ。今までの結果を見ると,今後も全く効果は出ないだろう。 

 

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