モノシリンの3分でまとめるモノシリ話

モノシリンがあらゆる「仕組み」を3分でまとめていきます。

作者の連絡先⇒ monoshirin@gmail.com

「今はデフレ」って、どこ見て言ってんの?

「今はデフレだから」というセリフをちょくちょく見かける。

一体どこを見て言っているのだろうといつも思う。

 

そもそもデフレとは何だろう。平成13年度年次経済財政報告における内閣府の説明を引用してみよう。

www5.cao.go.jp

ここでのデフレの定義は、持続的な物価下落という意味である。デフレという用語は、我が国では景気後退と物価下落が同時に起こることという意味で使われる場合もある。しかし、ここでは、国際的に通常使われる上記の定義を用いている

 

「持続的な物価下落」がデフレである。

では持続的に物価が下落しているのか。実質賃金算定の基礎となる数字であり、我々の体感に最も近い「消費者物価指数(持ち家の帰属家賃除く総合」を確認してみよう。

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データ元:総務省統計局

 

見てのとおり、アベノミクス以降、前年より物価が下がったのは2016年のみ。2020年が前年比横ばい。あとは全ての年で前年より物価が上昇している。

2020年と2012年を比較すると、7.2%も上昇している。

 

「持続的な物価下落」など起きていないことは一目瞭然である。

逆だ。物価は上がっている。

 

これは総合指数だが、食料だけに絞るともっと悲惨である。

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データ元:総務省統計局

アベノミクス以降、全ての年で前年を上回っており、2020年と2012年を比較すると、なんと13%も上昇している。

 

なんでこんなに急に上がっているのか。消費税増税の影響もあるが、それだけではこんなに上昇しない。

異次元の金融緩和で無理やり円安にしたからである。

円安になれば輸入物価が上昇するので、それは当然国内物価に転嫁される。

為替レートの動きを見てみよう。

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データ元:日本銀行

 

民主党政権時は1ドル80円ぐらいだったのが、アベノミクス以降、最も安い時で1ドル120円台を記録した。これは円の価値がドルに対して約3分の2になってしまったことを意味する。

 

さらに、通貨の真の実力を示す実質実効為替レートを見ると、今の円の実力は、1970年代前半と同レベルにまで落ちている。特にアベノミクス以降の落ち方が酷いのが分かるだろう。

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ただ、急速な円安と同じタイミングで、たまたま原油が暴落した。

最も円安が進行した2014年~2015年に、まるで崖から落ちるように原油価格が暴落しているのが分かるだろう。半分以下にまで落ちた。

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データ元:

www.eia.gov

 

 

原油は輸送燃料に使用される他、様々な商品の原材料になるので、これが暴落すると、物価の下落要因になる。

 

つまり、円安による物価上昇を、この原油暴落がある程度抑え込んでくれたのである。これが無ければもっと物価は上昇していたであろう。

 

2016年は前年より円高になり、原油価格も回復しなかったため、アベノミクス以降で唯一物価が前年より下がった。

 

それ以降は、また円安になり、かつ、原油価格がもとに戻ってきたので、再び物価が上昇した。

 

そして、問題は最近の傾向である。

円安が急に進行し、原油価格も上がり始めた。

円安+原油高の悪魔合体である。その影響で値上げラッシュが起きている。

 

ほしいものがあれば今のうちに買っておいた方がよいと思う。

 

 

ところで、物価だけに注目してはダメで、賃金と並べて見ないとほとんど意味が無い。

名目賃金、実質賃金、消費者物価指数を並べたグラフを見てみよう。

 

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データ元:厚生労働省総務省統計局

 

デフレばかりに注目が集まってきたが、アベノミクス前の時点の2012年は、物価のピークだった1998年の104.7と比べると、4.7ポイント程度しか落ちていない。なお今は107.2なので、日本の物価は史上最高水準である。

 

他方、はるかに深刻なのが名目賃金である。ピーク時の1997年の114.2と比較すると、アベノミクス前の2012年は、14.2ポイントも落ちていた。

 

14.2対4.7。

 

賃金下落率が物価下落率の3倍以上もあるのに、なぜかガン無視されている。

こんなに賃金下がったら、安いものしか買えなくなるんだから、物価が下がるのは当然だろう。なぜそれが無視されたのか。

 

私は経済に関する本をかなりたくさん読んできたが、「賃金下落をガン無視する」という傾向はほぼすべての本に共通していた。みんなどこ見てんの。

なんでこんなに下がってきたのか、非正規雇用の増大や低すぎる最低賃金も影響しているが、残業代の不払いも大きく影響していると思う。労働事件をたくさんやっているから分かるが、残業代不払いは本当に多い。ほとんどの企業はまともに残業代を払っていない。とんでもない長時間、無賃労働をさせている。だから賃金が上がらないのである。「残業代不払いは経済問題でもある」という意識を持たなければならない。

 

なお、日本がどれだけ異常なのか、OECD諸国と比較してみよう。

データが揃っている1996年を100とする名目賃金指数である。日本を含めて35か国分。

 

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データ元:OECD

日本は一番下の赤線である。なんと、このグラフにある35か国のうち、日本だけが唯一1996年を下回っているのだ。いやー、日本スゴイね。目先のコストカットに熱中して人間を使い捨ててきた結果がこれです。

 

 

ところで、日銀の目標は「前年比2%の物価上昇」、つまり、毎年2%物価を上げていくというものだが、これも名目賃金の傾向をガン無視した目標である。

 

実質賃金指数=名目賃金指数÷消費者物価指数×100である。

つまり、物価上昇率名目賃金上昇率が上回らなければ、実質賃金が下がってしまう。要するに生活が苦しくなる。

 

したがって、物価が毎年2%上昇するなら、名目賃金はそれ以上に上昇しなければならない。では、名目賃金の上昇率はどうなっているのか。

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データ元:厚生労働省

 

このように、最後に名目賃金前年比上昇率2%に達したのは1992年である。そこから28年もの間、一度も2%は超えていない。それどこからマイナスのオンパレードであり、1998年以降だと、1%を超えたのすら2018年だけである。

しかし、この2018年だけ急にピョコンと上がっているのは、統計をいじってごまかしたからである。詳しくは下記の拙著参照。この問題は国会でも追及されたし、私もそれに参加したのだが、結局問題がややこしすぎて国民の間に広まることは無かった。

 

 

ただ、2019年はそのインチキの後遺症も手伝って前年比マイナスとなっている。

自業自得である。

 

さて、このように名目賃金の傾向からすれば、いきなり物価を上げたら実質賃金が下がり、国民が困窮することは目に見えていた。そして、実際そうなった。さっきのグラフのとおり、実質賃金は2020年の時点で94.4。アベノミクス前より4.6%も落ちている。

 

なお、必ず「新規雇用者が増えて平均値が下がったから、実質賃金が落ちた」と主張するアホがいる。名目賃金の推移を見れば分かるとおり、2018年まで名目賃金は上昇している。平均値の問題であれば名目賃金も下がらなければならない。

 

単に物価上昇が名目賃金の上昇を上回ったから、実質賃金が下がっただけである。

さっきも書いたとおり、実質賃金指数=名目賃金指数÷消費者物価指数×100なのだから、「物価」を考慮に入れなければ、そもそも実質賃金の話にならない。しかし、平均値云々言う者に共通しているのは、全然物価に触れないことである。だから名目賃金の話にしかなっていないのだが、それすら気づいていない。

「私は実質賃金の算定方法を知らないアホです」と言っているようなものである。

 

この実質賃金の下落で日本のGDPの半分以上を占める実質家計消費はとんでもないことになっている。

 

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データ元:内閣府

 

2020年はコロナの影響だから仕方ないが、その前から悲惨である。

2014年~2016年にかけては3年連続して落ちている。これは戦後初である。

また、2019年は、6年も前の2013年より下である。この「6年前を下回る」というのも戦後初である。

結局、2013年以降全ての年で、2013年の数値を下回っている。戦後最悪の消費停滞である。もちろん消費税増税の影響もあるが、それだけではこれほど落ちない。円安による物価上昇が被さったことにより、こんな悲劇が生まれたのである。これも私以外指摘している人を見たことが無い。みんなどこ見てんの。一番大事なところなのに。

 

そして、今後待っているであろう事態は、さっきも言ったとおり、円安+原油高の悪魔合体である。

もう一度言うが、ほしいものは今のうちに買っておいたほうが良いと思う。値上がりする前に。

 

最後に、最近私が所属するブラック企業被害対策弁護団で本を発売したので宣伝しておく。なんで賃金が上がらないのかはこれを読んでも分かると思う。

 

 

 

 

 

ツイッターダイエット~17.6キロの減量と、その後~

2020年1月中旬、「そうだ、ダイエットしよう」と思い立ち、ダイエットした。

私の家系は遺伝的に糖尿病になりやすいので、太ったままだと発症する危険性があり、そろそろやばいと思ったのである。

下の写真はダイエットの前と後を並べたものである。

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厳密にいうと、左の写真は2019年4月8日に撮った写真であり、おそらく74キロ程度。ダイエット開始時の2020年1月中旬(何日かは忘れた)はそれよりもやや多く、75.6キロあった。

そして、右の写真は58キロ。2020年10月15日に撮影したものである。約9か月で17.6キロ減量した。脂肪が落ちたので顔のパーツが大きく見える。

 

どうやって痩せたかというと、次のとおりである。

 

1 毎日体重をツイッターで公開する。

2 朝はプロテインだけ。

3 昼食と夕食の摂取カロリーをだいたい1500キロカロリー以内に収める。

4 夕食は午後5時台に食べ、以降は何も食べない。

5 毎日40分~50分有酸素運動をする。

 

毎日体重をツイッターで公開したことはとても良いプレッシャーとなった。やはり「見られている」という緊張感があると全然違う。今まで幾度となく痩せようとして挫折したが、今回はツイッターの力を利用してうまくいった。だからこの減量を「ツイッターダイエット」と名付けた。

公開するなら毎日がいい。かつて私は週に1回体重をブログで公開するという方法でダイエットをしたことがあったが、めちゃくちゃになった。

平日は炭水化物をすべてカットし、体重測定(金曜朝)の前日はサウナに行って水を抜いて体重を減らし、体重測定後の夜はラーメン・ギョーザ・ビールの悪魔的コンポをキメてリバウンドする、ということを繰り返すようになったのである。

最後は全然減らなくなってしまったので、絶食+サウナで無理やり3日で3キロぐらい減らし、目標(その際は60キロ)を達成したことにして減量を止めた。そしてあっという間に元の体重に戻った。今回はその轍を踏まないよう、毎日公開することにしたのである。これだとインチキできない。

 

今回のダイエットにおいて、夕食の際に毎回ハイボールかグラスビールを1杯飲んでいたが、それはカロリー計算に入れていない。だから、昼食と夕食の合計摂取カロリーは厳密に言うと毎回1500を上回ってはいたと思う。なお、炭水化物カットはしていない。

有酸素運動については、いろいろ試したが、最後にフィットネスバイクに行き着いた。これを40分~50分、けっこう頑張って漕いだ。

ランニングをしていた時期もあるが、雨が降っていると走れない、ひざと腰を痛めやすい、外に出るのが面倒、といろいろデメリットがある。

フィットネスバイクは室内なのでそういったデメリットが無いし、テレビや本を読みながらできる。ただ、汗はめちゃくちゃ出るので汗対策は必要。

 

フィットネスバイクは下記のものを買った。約3万円。

このバイクの凄いところはほぼ全く音がしない点である。非常にお勧め。なお、こちらはセンサーがついていないタイプ。ついてるタイプもあり、値段が高くなる。

 

体重を減らす方法は、突き詰めれば単純である。毎日のカロリー収支をマイナスにし続けること。ただそれだけ。炭水化物をカットするダイエットが流行っているが、あれも結局は炭水化物カットによってカロリーもカットされているというだけなのではないかと思う。

 

食事をやや制限し、さらに有酸素運動をすれば、カロリー収支は毎日わずかにマイナスになる。それを継続すると、体重は上下動を繰り返しつつ、だんだん減っていく。

目標に達するまでの体重の推移を示したのが下記のグラフである。なお、アプリで体重を記録し始めたのは2020年の2月2日から。

 

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ペースは一定で、毎月2キロ程度減っていった。停滞した時期もあった気がするのだが、こうやってグラフにしてみると一定に見える。

最初のころは食事を減らすだけで減ったが、だんだん減りづらくなってきたので、有酸素運動の量を増やした。

 

ダイエットをする際に気をつけなければならないのは、急に減らしすぎないことである。急減するとリバウントしやすくなる。さらに、急減を狙って極端な食事制限をすると、摂食障害を発症する可能性がある。摂食障害は命にかかわる恐ろしい病気であり、一度罹患すると非常に治りづらい。だから、一気に体重が減ることを喜んではいけない。毎月1~2キロ程度減るのがちょうど良いのではないかと思う。この点を私は最も強調したい。

 

食事制限&有酸素運動が「習慣化」すれば、あとはあまり大変ではない。

最初の1か月を乗り切り、1~2キロの減量に成功すれば、波に乗れるだろう。

 

うまく減量できたのは、コロナで飲み会がすべてなくなったことも大きく影響しているとは思う。一気に酒と食事の量が減った。

 

このように、58キロまで減量したわけだが、現時点でそこから1年1か月以上が経過している。目標体重達成日から現在までの体重の推移が下記のグラフである。

 

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この1年1か月間、ずっと57キロ台~59キロ台で推移している。60キロを超過したことはない。

 

減量期と異なり、食事制限はしていない。食べ過ぎないようにはしている。

有酸素運動はほぼ毎日している。内容は減量期よりもハードになった。

サイクリングアプリのズイフトで週に4回はワークアウトを行い、1回あたり60分~80分運動している。消費カロリーは600~800キロカロリー。そして、週に1回はロードバイクで100~150キロ程度のサイクリングをしている。

サイクリングは減量期も行っていたが、ズイフトを始めたのは減量が終わってから。フィットネスバイクをワフーキッカーバイクというズイフトに接続できるものに買い替えて始めてみた。

 

これにより有酸素運動能力が飛躍的に向上した。週末はいろんな峠に行ってヒルクライムを楽しんでいる。頑張った分、自分の体が変化していくのは非常に楽しい。

 

有酸素運動を習慣化できたことが、体重維持の大きな要因である。一度習慣化してしまうと、「やらないと気が済まない」状態になるので、勝手に継続できる。

 

私はかなりゴリゴリにトレーニングしている方だと思うが、体重を維持するだけならここまでゴリゴリにやる必要は無い。40分~50分、普通のフィットネスバイクを汗が出る程度に頑張って漕げば十分である。私の場合、筋トレも並行してやっているので体重が維持されている。筋トレを止めればもっと落ちると思う。

 

減量してもリバウンドしては全く意味が無い。

したがって、ダイエットにおいて、目標体重まで減らすことは「入口」に過ぎず、それを維持することが本番と言ってよいかもしれない。

ズイフトとロードバイクにはまった影響で、今のところ維持はできている。健康診断で指摘された脂肪肝も解消した。体年齢は26歳で、実年齢より11歳若い。間違いなく、人生で一番健康な状態である。

これを体が動くかぎり維持し続けることが「ダイエット」なのだろう。

 

 

 

ところで、急に本の宣伝をする。

私が所属するブラック企業被害対策弁護団で、労働に関する本を最近出版した。二次利用フリーになっている漫画「ブラックジャックによろしく」を織り交ぜて、気軽に楽しく読める労働法の本になっている。

今までいくつか本を出してきたが、個人的にはデザイン的にも内容的にも一番気に入っている。物凄くサクッと読めるが、その割に非常に濃い内容にできたと思っている。

この本を読めば「労働に関連する法律について、会社が言っていることはだいたいウソ」ということが分かるだろう。一家に一冊置いてほしい本だと本気で思っている。

 

 

 

 

 

 

 

アベノミクスの「成果」を示すデータ集

さて,選挙も近づいてきたということで,アベノミクスの成果を示すデータを貼り付けていこうと思う。

選挙のたびに「経済」が強調されてきたのだから,有権者にとってアベノミクスの成果を確認することは必要不可欠である。

まずはツイッターで盛大にバズったこのグラフから。アベノミクス前の2012年を100とした賃金と物価と消費の推移である。

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データ元:厚労省総務省

 

消費税増税と円安により,物価が6年間で6.6%も上がった(赤)。

その一方,名目賃金は2.8%しか伸びなかった(青)。

だから実質賃金は,アベノミクス前と比べて3.6%も落ちた(緑)。

そして,実質世帯消費動向指数は9.3%も落ちた(黄色)。

 

日銀によると消費税増税による物価上昇効果は2%だそうだ。

残りの4.6%はアベノミクスがもたらした円安が最も影響しているだろう。

(なお,2015年に原油の暴落があったおかげで円安による物価上昇の勢いが抑えられていたが,2017年頃から原油価格がもとに戻り始めたので,その抑圧効果が薄れて物価が上がった。原油価格がアベノミクス前の水準のままだったら,円安による物価上昇はもっと凄まじいものになっている。)

つまり,増税に円安を被せたことにより,物価が急上昇し,賃金が全然追い付かなかったので,我々はビンボーになったのである。

 

以上。

 

と,ここで終わりにするとアベ応援団の方々がギャーギャーうるさいのでもっとデータを貼っていく。

実質賃金のことを言うと必ず新規雇用者が増えて平均値が下がっただけ,と言い出すバカがいるが,名目賃金を見ろ。下がってないだろう。

単に名目賃金の伸びを物価が上回ったから実質賃金が下がっただけ。

 

これだけだとまだギャーギャー言いそうだ。そこで,サンプル数が決まっており,「新規雇用者増による影響」が無い,可処分所得の推移について見てみよう。

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データ元:総務省

 

可処分所得で見ても,2017年の実質値はアベノミクス前を3%も下回る。

こういうと「税金や社会保険料で下がったんだ」と言い出す輩がいるので,税金や社会保険料が引かれる前の実収入で見てみよう。

 

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さっきよりはマシだが,やはり実質実収入で見ても,2017年はアベノミクス前より下。

 

さて,賃金の話に戻る。2018年の名目賃金は,あれでも思いっきりかさ上げしているのである。2018年から賃金の算出方法が変更された。サンプルを一部入替えて,ベンチマーク(賃金算出に使い係数みたいなもの)を更新した。

今までなら遡って改定して変な段差が出ないようにしたが,それを止めてしまった。

だから,2018年だけ急に伸びた。

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見てのとおり,2013年~2017年の5年間で1.4%しか伸びなかったのに,2018年の1年間で1.4%伸びた。

でも,物価がこの年1.2%伸びたので,結局実質賃金の伸びはほぼ横ばい。

かさ上げしてもショボいのがミソ。

 

我々がビンボーになった結果,GDPの6割を占める実質消費は異常な停滞を引き起こした。

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2014年~2016年にかけて3年連続で下がった。戦後初。

2017年は前年よりは上がったが,4年も前の2013年を下回った。これも戦後初。

戦後最悪の消費停滞を引き起こしたのがアベノミクス

 

そして,これすらもかさ上げされた結果なのである。

2016年12月に,「国際的GDP算出基準である2008SNAへの対応」を強調して,GDPが1994年まで遡って改定された。

しかし,肝心なのは,その2008SNAと全然関係ない「その他」

この部分でアベノミクス以降のみかさ上げし,90年代を大きくかさ下げするという「ソノタノミクス」という現象が起きた。

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データ元:内閣府

 

おかしいだろ。これ。

 

で,改定前後の名目民間最終消費出の差額と,「その他」を重ねてみると,アベノミクス以降のみ3年度連続で一致する。

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データ元:内閣府

 

アベノミクスで最も失敗した消費をかさ上げしたということだ。

消費のかさ上げはこれ以降も続いている。

世帯消費動向指数(総務省)に世帯数(厚労省)を乗じた数字と,持家の帰属家賃を除く家計最終消費支出(内閣府)を比較すると異常さが良く分かる。

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2014年まではほぼ一致。

しかし,2015年から急に差がワニの口のように開いている。

差額を抜き出したのが下記のグラフ。

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2015年以降だけ昇竜拳みたいに増えている。

おそらく,供給側(売る側)の統計のウェイトを増やしたものと思われる。

売る側の統計には,事業所の消費や訪日外国人の消費も入ってしまう。

つまり,売る側の統計のウェイトを増やすと,「家計の」消費の実態から外れてしまう。

家計消費が落ちすぎてしゃれにならない状況なので,ウェイトを変えてごまかしたのだろう。このインチキをしていなければ,GDPがマイナス成長になっていてもおかしくない。

なお,改めて強調するがこの消費のかさ上げは2008SNAとは全く関係ない。

 

賃金と消費がかさ上げされているということだが,これは氷山の一角に過ぎない。

2019年2月18日衆議院予算委員会における小川淳也議員の指摘によれば,安倍政権以降,53件の統計手法を見直し,そのうち38件がGDPに影響しているという。ちなみに民主党時代は16件で,そのうちGDPに影響するのは9件だけ。

 

うまくいかないから統計をいじりまくっているのである。

もはやこの国の統計は原型をとどめていない。

 

さて,次にエンゲル係数を見てみよう。

 

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食料価格指数(赤)は,アベノミクス前と比べると10%以上も上がっている。

そして,さっきも言ったとおり賃金は全然伸びていない。

だから,エンゲル係数(支出に占める食費の割合)が急上昇しているのだ(青)。

 

食料品が値上がりしたり,あるいは同じ値段でも量が少なくっていることを実感する人は多いだろう。あれは円安の影響だ。輸入物価が上がるからそういう現象が起きるのだ。

自国の通貨の価値を下げるというのは,そういうことである。

 

さて,こういうことを言うと雇用が改善しているだろうと言われそうだ。

たしかに雇用者数は増えているが,重要なのはその内訳。

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ご覧のとおり,2018年と2012年を比較すると,医療・福祉が125万人も増えており,ぶっちぎりの1位。これは明らかに高齢化の影響。

それ以外でアベノミクスの引き起こした円安の恩恵を受けた業種は,宿泊業と製造業ぐらいだろう。後はなんの関係も無いか,むしろ原材料の高騰で苦しむ業種ばかりである。

この雇用者増にはフランチャイズ店舗の増加も影響している。下記はフランチャイズ店舗数について,2003年を100として指数化したもの。

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ご覧のとおり,アベノミクス前からフランチャイズ店舗は増加傾向。

フランチャイズ店舗は業種を問わずパート・アルバイトを大量に雇用するので,雇用者数増に影響する。

特に,コンビニの伸びが凄いのが良く分かるだろう。

なんでこんなに伸びるかというと,凄まじい搾取システムのおかがで,店を出せば出すほどフランチャイザーが儲かるようになっているからである。

他方で,コンビニオーナーは地獄のような目に遭っている。

下記の本を読むと,実態が良く分かる。

こうやってコンビニが伸びていることも影響し,増えた業種の2位が「卸売・小売り」になっているのだろう。

これはフランチャイズという仕組みが生み出しているものであり,アベノミクスと全然関係ない。

なお,外食とサービス業は,近年むしろアベノミクス前よりも伸び悩んでいる。

 

「就業者数が増えた」というのもよく言われる。就業者とは,雇用者に自営業者等を足した数字。

たしかに年で見ると2013年あたりから増え始めたように見えるが,細かく分析するとこれも違う。

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ご覧のとおり,全ての年齢階級において,一律に就業者が増えているわけではない。6つの階級のうち,半分は減少しているのである。

そこで,この減っている階級を一つにまとめたものを「減少群」とし,増えている階級を一つにまとめたものを「増加群」としてグラフにしてみると,面白いことが分かる。まずは減少群(25歳~34歳+35~44歳+55~64歳)から見てみよう。

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見ての通り,減少群の減少傾向は,安倍政権以前から始まっており,その傾向がずっと継続している。傾きにも特に変化は見られない。なお,点線は,傾向を分かりやすく捉えられるよう,エクセルの機能を使ってつけた多項式近似曲線である。

次は増加群について見てみよう。

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加群の増加傾向は,安倍政権発足前から既に始まっており,その傾向がずっと続いているだけ。だいたい2012年の中頃から増加が始まっている。

就業者数が増加に転じたのは,この安倍政権以前から始まった増加群の増加ペースが,減少群の減少ペースを上回ったからである。

そのタイミングが年次データで見るとたまたま2013年だったので,あたかもアベノミクスのお陰で就業者数が増え始めたように「錯覚」してしまうのだ。

さっきも指摘したとおり,増えた雇用の内訳を見ればアベノミクスと関係ないことは一目瞭然。

以上のとおり,就業者数の増加は,ただ単にアベノミクス前から始まった傾向が,そのままずっと継続しているというだけの話。

あれほど異常な消費の停滞が無ければ,就業者数ももっと増えていたはず。

 

アベノミクス前からの傾向がそのまま続いているだけ」というのは,安倍総理がよくもち出す有効求人倍率と失業率にもあてはまる。

このグラフを見れば分かるとおり,有効求人倍率の上昇も,失業率の低下も,共にアベノミクス前から始まっており,アベノミクス開始前後で傾きに全く変化は見られない。

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アベノミクス以降もずっと改善傾向が継続しているのは,金融危機が発生していないからである。数字が悪化した時期を見ると,まず1991年のバブル崩壊以降だんだん悪くなっていき,1997年11月から発生した金融危機の影響でさらに悪化している。


そして,2003年あたりからだんだん良くなってきたが,2008年のリーマンショックでまた猛烈に悪化する,という経緯が見て取れる。

雇用を最も悪化させるのは金融危機アベノミクス以降は幸運なことにそれが発生していない。だからずっと改善傾向が続いている。

 

次は賃上げ2%。

安倍総理は賃金のことを突っ込まれると必ずといっていいほど「賃上げ2%達成」を自慢する。

この賃上げ率は春闘における賃上げ率を使っている。問題は,春闘の賃上げ率のサンプルだ。当然のことながら,春闘に参加した組合員しか対象になっていない。そこで,賃上げ率の対象となった組合員数の,全体の雇用者(役員を除く)に対する割合を見てみよう。

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データ元:総務省統計局「労働力調査」,連合ウェブサイト

 

見てのとおり,アベノミクス以降を見ると,安倍総理が盛んに自慢している賃上げ2%の対象となった労働者は全体の約5%程度しかいない。

5%にしか当てはまらない数字を大きな声で自慢し,あたかも国民全体の賃金が上がっているかのように錯覚させようとしている

しかも,この賃上げ上昇率は名目値である。この上昇率から,消費者物価指数を差し引いた実質賃金上昇率を出すと,実にしょぼい結果になる。

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データ元:連合ウェブサイト,総務省

 

なんと,民主党時代最も低かった2012年の実質賃上げ率1.72を上回った年は,アベノミクス以降だと,2016年のたった1回しかない。2014年なんか大幅なマイナスになっている。

このように,実質賃上げ率でみると民主党時代よりもアベノミクス以降の方が圧倒的に低いのである。

 

さて,次によく言われるが株価の上昇。これは異次元の金融緩和に加え,年金資金の投入と日銀のETF購入で吊り上げているだけ。

まずは年金を運用しているGPIFの国内株式運用額と構成比の推移を見てみよう。

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データ元:GPIF

 

2014年度に構成比を変えたので急に伸びているのが良く分かるだろう。

我々の年金が株に突っ込まれているのである。

次に日銀ETF

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データ元:日銀

 

こんなに爆買いしているのでもう後戻りできない。

株価が下がった日は「日銀 ETF」で検索してみよう。

ほぼ間違いなく日銀の買いが入っている。

 

 

これらの内容は拙著「国家の統計破壊」第7章から主に引用した。

 

国家の統計破壊 (インターナショナル新書)

国家の統計破壊 (インターナショナル新書)

 

 

こんなに書いちゃうと担当編集から怒られそうだが,これは広く国民に周知されるべき事実なので,別に怒られてもかまわない。

 

アベノミクスは国民をビンボーにしただけ。

それがバレるのが怖くて,統計はかさ上げし,株価もかさ上げし,アベノミクスと無関係の雇用改善を自分の手柄と喧伝している。

 

安倍総理にとって,国民は騙す対象でしかないのだろう。

 

賃金はほとんど伸びなかった。なのに物価は上がった。だから生活が苦しくなった。

順番が逆だった。まず先に賃金を上げるべきだった。

しかし,その失敗は無視し統計をかさ上げして賃金が上がったように見せかけ,増税を強行しようとしている。

増税すれば当然物価は上がる。

物価が上がれば実質賃金は下がる。

国民はよりビンボーになる。

 

こんな人間を支持する理由がどこにあるのだろう。

 

安倍総理経団連の方しか見ていない。そして,経団連は労働者を低賃金で長時間働かせることばかり考えている。

だから今まで賃金が下がり続けてきたのだ。

賃金と物価のの長期的推移を見てみよう。こちらは年度データ。

なお,3分の1しか調査してなかったという統計不正のせいで,2004年度以降の賃金データは正確性を欠くが,代替するものが無い(2004年度~2011年度までは修正されたデータが無い)のでやむを得ずそのまま使う。

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1997年11月に,バブルの後遺症が爆発して大手の金融機関が破綻し始め,金融危機が始まった。

日本の経営者達は,これを労働者の賃金を削りまくるという手段で乗り切ろうとした。

それがずーっと放置された結果,賃金がどんどん下がっていき,それに合わせて物価も下がったのである。デフレの原因は賃金の低下。上のグラフを見ると,賃金が下がるのに合わせて物価も下がっていったことが分かるだろう。

 

まずやることは賃金を上げること。

最低賃金の引き上げについては,急激にやりすぎると韓国のように失敗する。だから,デービット・アトキンソン氏が指摘するように,イギリスの最低賃金引き上げの成功例を模範として,引き上げていくべきだろう。下記参照。

 

日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義

日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義

 

そして,横行している残業代不払いの撲滅。これが低賃金だけでなく,長時間労働を招き,過労死,過労うつを発生させている。働いた分はきちんと払わせなければならない。そんな当たり前のことが,この国ではできていない。

さらに,有期雇用の無期雇用への転換をもっと促進させ,待遇も同等にしていくべきだ。

 

これは自民党にはできない。目先のことばかり追いかけ,賃金を下げることばかり考えている無能な経営者集団である経団連がスポンサーだから。

 

労働者を守る政策は,野党にしか実現できないだろう。

野党には労働者を守る政策を推進してほしい。

普通に働いて普通に生きていける社会を実現してほしい。