さて,番外編としてラグビー日本代表が南アフリカ代表に勝利したことがどれだけ凄いことか語ることにしよう。
急にどうしたんだい。
作者がラグビー経験者で,どうしてもこの話題について語りたいから無理くり話すのだよ。
ふ~ん。
日本代表の偉業を理解するには,どれだけ南アフリカが強いのかを理解する必要がある。
1.20年前に日本代表が145-17で敗れた相手に勝った国が南アフリカ
まず,話を20年前に遡らせよう。
20年前に何があったの?
日本代表が,1995年のラグビーワールドカップにおいて,ニュージーランド代表に145対17で大惨敗したんだ。
この敗戦をきっかけに,日本のラグビー人気が下降したとまで言われている。
これは「ブルームフォーンテーンの悪夢」と言われている。その動画がこれだ。
すいすいトライを取られているね。物凄い実力差だな。
しかも,ニュージーランドは控えの選手が中心だった。
控えでこれだけ強いんだね。ニュージーランドはこの大会優勝したのかな。
いや,優勝していない。このニュージーランドを決勝戦で延長の末に破り,初優勝を果たしたのが開催国の南アフリカさ。
そうなると南アフリカは日本から見たら雲の上の存在だね。
そうだ。その超強豪国に勝ったから,対戦相手は違えど,20年前の屈辱を晴らしたと言われているんだ。
ちなみに,この後,南アフリカは2007年のワールドカップでも優勝している。
2.ワールドカップに限ると世界最高勝率を誇っていた国が南アフリカ
日本のワールドカップの成績はどうなの。
今大会まで1勝21敗2分だ。たったの1勝しかしていない。
これに対して今大会前までの南アフリカのワールドカップでの成績は25勝4敗だ。
ワールドカップに限って言えば,世界で一番の勝率を誇っていた超強豪国だったんだ。
3.ニュージーランドを除く地球上の全ての国に勝ち越していた国が南アフリカ
下の表は,これまでの南アフリカの対戦相手別の勝率を,低い順に並べたものだ。ただし,南アフリカが一度も負けたことの無い国は除いてある。
対戦相手 | 試合数 | 勝 | 負 | 分 | 勝率 | |
1 | 日本 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0% |
2 | ニュージーランド | 91 | 35 | 53 | 3 | 38.46% |
3 | オーストラリア | 81 | 45 | 35 | 1 | 55.56% |
4 | フランス | 39 | 22 | 11 | 6 | 56.41% |
5 | イングランド | 37 | 23 | 12 | 2 | 62.16% |
6 | アイルランド | 22 | 16 | 5 | 1 | 72.73% |
7 | スコットランド | 26 | 21 | 5 | 0 | 80.77% |
8 | ウェールズ | 31 | 28 | 2 | 1 | 90.32% |
9 | アルゼンチン | 22 | 20 | 1 | 1 | 90.90% |
南アフリカに勝ったことのある国は日本も含めてたった9か国しかないんだね。
そうだ。そして,1戦しかしていない日本を除くと,南アフリカに勝ち越している国は,世界でニュージーランドただ一つしかない。
つまり,南アフリカはニュージーランド以外の全ての国に勝ち越しているということだね。
歴史的に見ると,世界で二番目に強い,ということだな。
4.南アフリカに勝ったことがある国はティア1に属する国のみ
そうだ。そして,日本以外で南アフリカに勝った経験を持つ国には共通した特徴がある。
それは,「ティア1」というカテゴリーに属する国,ということだ。
ティアというのは階級という意味に捉えればよい。
ラグビーの世界において,昔からの強豪国はこのティア1という階級に入っている。
そこに入る基準はあるの?
「この基準を満たせば,ティア1に入る」というような基準は無い。
昔から強い国が「何となく」ティア1という階級でくくられている。
ティア1に属する国は,下記の10か国だ。
【南半球】
・オーストラリア
・アルゼンチン
【欧州】
・フランス
・イタリア
今回のワールドカップでベスト8以上に進出した国が全て入っているね。
そのとおり。ちなみに日本はティア2だ。
ティア2の国がティア1の国に勝つのは本当に難しい。
体格と身体能力に優れたフィジー,サモア,トンガなんかがたまにティア1の国に勝つぐらいだ。
対南アフリカでも,ティア2の国で勝利しているのは日本しかいないもね。
そう。ティア1の国の強さは,ティア1の正代表に対する日本代表のテストマッチ(国同士の真剣試合)の成績を見ても分かる。下の表を見てごらん。
対戦相手 | 試合数 | 勝 | 負 | 分 | 勝率(%) |
オーストラリア | 4 | 0 | 4 | 0 | 0.00% |
イングランド | 1 | 0 | 1 | 0 | 0.00% |
フランス | 3 | 0 | 3 | 0 | 0.00% |
アイルランド | 5 | 0 | 5 | 0 | 0.00% |
イタリア | 6 | 1 | 5 | 0 | 16.67% |
ニュージーランド | 3 | 0 | 3 | 0 | 0.00% |
スコットランド | 5 | 0 | 5 | 0 | 0.00% |
南アフリカ共和国 | 1 | 1 | 0 | 0 | 100.00% |
ウェールズ | 9 | 1 | 8 | 0 | 11.11% |
南アフリカを除くと,日本代表はイタリアとウェールズにしか勝ったことが無いんだね。しかもいずれも一度きりだ。
そう。そしていずれの勝利もエディージャパンになってからのものだ。それまではティア1の正代表に一度も勝ったことが無かった。
ただ,2014年に勝利したイタリアはティア1の国の中でも歴史的な成績から言えば一番弱い。
また,2013年に勝利したウェールズは主力ではなく,若手主体のメンバーで,試合会場も日本だった,という事情がある。
ワールドカップという舞台で,フルメンバーで当たってきた南アフリカ戦とは大きく事情が違うね。
そうだ。それでも,特に日本代表が当時世界ランキング5位のウェールズに勝ったことは大変な快挙だった。
5.強豪ウェールズですら約110年間で2回しか南アフリカに勝ったことがない
ところで,ウェールズは欧州6か国対抗という国別の対抗戦で最多の34回の優勝を誇る強豪だ。 2016年1月23日現在の世界ランキングは4位で,欧州で一番ランクが高い。
ここで,6か国対抗というのは,イングランド,ウェールズ,スコットランド,アイルランド,フランス,イタリアの6か国が戦う大会だ。
欧州最高峰の国別対抗戦ということだね。
そう。そして,ウェールズの対南アフリカの対戦成績は,さっきの表にも書いてあるけど,2勝28敗1引き分けだ。
え?6か国対抗で34回優勝している強豪ウェールズですら,南アフリカにたったの2回しか勝ったことが無いの?
そう,1906年の初対戦から約110年間,ウェールズは南アフリカにたったの2回しか勝っていない。
南アフリカの強さがようやくわかってきた気がする。
そうだろ。ティア1の中でも強さには差がある。特に,上位のニュージーランド,南アフリカ,オーストラリアは別格の強さを誇る。
この3か国以外で,ワールドカップ優勝経験があるのはイングランドだけだ。
世界3強というわけだね。今回のワールドカップでもベスト4に全て残っていたもんね。
そう。世界の頂点に君臨するこの3か国のいずれかに勝つというのは,ラグビー界において格別の意味を持っているんだ。
次に,日本代表と世界との体格差,環境差について話すことにしよう。
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