さて,後半75分,五郎丸が,デュプレアのキックを自陣22メートルライン付近でキャッチしたこのシーンから見てみよう。
※該当シーンから再生開始します。
スコアは29対32で日本が負けている。ここから,日本は驚異的な連続攻撃を見せる。
22メートルライン付近から五郎丸は大きく右に展開する。ここからゴールラインまでは約78メートルだ。
凄い。こんなに攻撃がつながるものなんだね。
そうだ。これは驚異的だ。ところで,画面の左上のスコアの横を見てごらん。
phase19って表示されているね。
これはラックが19回発生したという意味だ。
ラックというのは,地上にあるボールを争奪し合うプレーのことだ。
ラグビーは,相手にタックルされた場合,ボールを地面に置かなければならない。
地面に置かれたボールをその後奪い合うというわけだね。
そうだ。ちなみに,ボールを地面に置かなければノットリリースザボールという反則を取られる。
防御側は,タックル後,相手がボールを地面に置く前にそれを奪うとする。
奪われまいとしてボールを離さないとノットリリースザボールというわけだね。
そうだ。それを避けるために,味方が素早くかけつけてボールを奪いに来る相手を押しのける必要がある。
ボールを地面に置いた後,敵味方一人以上が組み合う状態になるとラックが成立する。
ラックが成立すると,手を使ってはいけない。防御側がボールを奪い返すには,相手を押しのけて足でボールを掻き出す必要がある。
要するに,タックルが成立した後は,押し合いが生じるというわけだね。
押し合いだから,単純に考えると体重の重い方が有利だね。
そのとおり。だから,フォワードの強さを測る目安として体重が参考にされるんだ。
日本の相手は平均体重世界最重量を誇る世界最強のフォワード陣だ。
その相手にラックを連取するには,まずは相手よりも早くラックが発生したポイントに到達しなければならない。
さらに,姿勢が高いと体格で上回る相手には勝てないから,姿勢を低く保つ必要がある。
この場面,19回目のラックで相手が反則を犯してプレーが止まったが,それまで日本は18回もラックを連取したことになる。
世界最強のフォワードを相手に18回ラックを連取したってことだね。凄いなあ。
そうだ。フォワードの平均体重が出場20カ国中17位の日本がそれを成し遂げたんだ。偉業だよ。
これは,タックルのところでも説明した「リロード」(倒れてもすぐに起き上がる)をひたすら繰り返したことと,「シェイプ」をきちんと作り続けたからだ。
「シェイプ」というのは,フォワードの選手をスクラムハーフ,スタンドオフ,センターの周辺等に予め配置することだ。
この形を予めつくることにより,攻撃の選択肢が増えると同時に,素早くラック発生地点に到達することができる。
それ,超体力必要だよね。しかも後半75分過ぎで一番疲れてる時間帯なのに。
そのとおりだ。この場面は,日本代表が耐え抜いた地獄の練習の成果が最もよく現れた場面と言える。
なお,この試合,五郎丸がペナルティゴールを4回決めているけど,それもこのように連続攻撃が出来ていたからこそだ。
素早い連続攻撃で相手が焦るから反則を犯し,ペナルティゴールの機会を得ることにつながっている。
ゴールを決める五郎丸も凄いけど,蹴る機会を得ることができたのは,皆の頑張りのおかげということだね。
そのとおりだ。そしてこの場面,最後に五郎丸が突撃して,ゴールライン寸前まで達している。
ここで相手選手がペナルティを取られて10分間の退場処分になっているね。なんでだろう。
うん。下記の画像を見てごらん。南アフリカの右プロップウーストハイゼンが五郎丸の下に挟まっているだろ。
これ,ボールが五郎丸とウーストハイゼンの間に挟まっちゃってるから,出せないね。
そうだ。こういう状態になるのを防ぐため,タックルした選手はすぐに起き上がってラックの外に出なければならない。
ラックの外に出ないでこういう風に邪魔してると「ノットロールアウェイ」という反則を取られる。
しかも,このシーンはこの反則が無ければトライが出来たかもしれないので,極めて悪質と判断された。
だからイエローカードで退場処分なんだね。
そうだ。そして,このシーンが最後のスクラムの場面に影響してくる。退場した選手が右プロップの選手だということをよく覚えておいて。
そして日本代表はペナルティを得た地点からボールを外に蹴り出し,ラインアウトからゲームを再開する。
※該当シーンから再生開始します。
これ,ボールを投げる木津は超緊張しただろうね。ボールを真っ直ぐ投げないとノットストレートを取られるから。
そうだね。こういう勝負がかかったシーンでスローインする選手の緊張は相当なものだろう。
このシーン,日本代表はブロードハーストが無事ボールをキャッチして,モールに移る。
ナイススローだね。トンプソンじゃなくてブロードハーストをターゲットにしたんだな。一瞬フェイントをかけているようにも見えるね。
このモールもバックスの選手が参加しているな。
そうだ。ヘスケス,田村,立川,サウの4人が参加している。
フォワードの8人も足すと合計12人か。前半のトライの時よりもさらに人数が増えているね。
そうだ。日本代表はこのモールに全てを賭けた。12人モールなんて漫画みたいな大技だよ。
このモールでゴールラインを超えたものの,トライには至らなかった。
なんでかな。ゴールライン超えたからいいんじゃないの。
ラグビーはゴールラインを超えてボールを地面に置く(グラウンディング)まで行かないとトライにならないんだ。
地面にボールがついたかどうか確認できなかったというわけだな。
このシーン,よく見ないと気づかないが,非常に重要な事故が発生している。ここを見てごらん。
※該当シーンから再生開始します。
南アフリカの太っちょの選手が何か痛そうな顔して叫んでるね。
そう。この選手は南アフリカの左プロップ,ニャカニだ。おそらく左足がモールの下敷きになって怪我をしたんだろう。
そうすると,さっき右プロップのウーストハイゼンも退場しちゃったから,両プロップがいなくなってスクラム組めないんじゃないの。
そこが重要な点だ。ラグビーは原則として一度交代した選手は再度その試合に参加することはできない。
この試合のスターティングメンバーである左プロップのムタワリラ,右プロップのデュプレッシーは既に交代している。
しかし,これまでに見た通り,右プロップは反則で,左プロップは怪我で退場せざるを得なくなった。
このように,スクラム最前列の選手が退場してしまった場合,例外的に,一度交代した選手を再度出場させることができる。
これはスクラム最前列の選手が特殊な技能を要求されるいわば専門職だからだ。
これが後に展開に影響するのかな。
そうだ。次はその点について話をしよう。
グラウンディングできなかった場合は,ボールを持ち込んだ方のスクラムで再開する。
南アフリカの予期せざるメンバー交代がここに影響してくる。
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